複雑・ファジー小説

Re: イノチノツバサ 【オリキャラ募集中】 ( No.8 )
日時: 2015/08/25 21:16
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)




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「おい、お嬢。消毒液あるか?」

「その呼び方……裏稼業のようで、なんだか嫌ですわ……」

 文句を言いながら、遙は携帯ポーチから消毒液を取りだすと、翼沙に向かって放り投げた。翼沙はそれを受け取ると、手際良くガーゼにしみこませ、負傷者の傷口を洗浄する。

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 かなり染みたようだ。手当てされているけが人は、絶叫した。

「うるせぇな。こんぐらいでピーピー騒いでんじゃねぇよ」

 翼沙は暴れるけが人を片手で押えこみ、もう片手で傷口を包帯で塞いでいた。器用で、迅速で、それでいて丁寧な処置だ。あまりの手際の良さに、遙は少しの間、ぼうっとその様子を観察していた。

「ん?手が止まってるぞ、お嬢。重篤患者まで手が回るようにするんじゃないのか?」

「はっ!い……いや、分かってますわよ!」

 遙は我に返り、慌てて救助に戻った。今処置している負傷者は、外傷があり気絶しているが、幸いにも感染はしていないようだ。

 作業をしながら、遙は問いかける。

「……良い手際ですわね。誰に教わりましたの?」

「ん?」

 翼沙は先ほどの処置を終えたようで、すぐさま別の負傷者の治療に当たっている。

「別に、誰にも教わってねぇよ。自分で覚えた」

「え?」

 遙が驚いていると、すかさず「おい、手が止まっているぞ」と翼沙に注意された。

「俺の生きていた世界は、多分お前も想像できないようなところだ。こうやって自分で治療しなきゃ、身体にウジがわいて野たれ死ぬだけさ。だから、生きるために覚えたんだ」

「…………」

 返す言葉がなかった。遙はそこで口をつぐんだ。しばらく、気まずい沈黙が流れる。

「遙ちゃ〜ん、包帯持ってきて〜」

 そこに、莉亜からの要請が飛び込んできた。

「あ、ええ。ただいま……」

 遙は逃げるようにその場を後にする。

———過去に、何かあったのかしら?

 一瞬足を止めて振り返ってみたが、翼沙は「かったるいな……」と呟きながら、作業をしているだけだった。