複雑・ファジー小説
- Re: 這竜は白銀と浪に踊る。 ( No.2 )
- 日時: 2015/08/02 21:26
- 名前: 睡魔 (ID: EEo9oavq)
「喰らえ這竜! 電光!」
砂と灼熱以外何も無い広大な砂漠の中。
女剣士が叫ぶと、天から電撃が、俺の岩のような不揃いな鱗がビッシリと連なった背中に降り注いだ。
鱗に直撃し、いい感じに腰に電気が流れる。
「あ〜効く効く。最近腰痛酷いんだよね」
別に、這竜の俺は蛇と同じように、そもそも腰なんて存在しない。もちろん腰痛も無い。
ただ、女剣士を挑発する為に放った言葉だ。
「な、なんと…………うぬぬ、これだけの魔法を喰らいながら平気な顔を! やはり這竜といえどドラゴン。必ずや私が倒すぞ! ドラゴンの腰痛解消をした女剣士と言われるほど情けない話は無い!」
一人で大声を上げ宣言すると、女剣士は再びわちゃわちゃと剣を振り回し始めた。
こんな長ったらしい台詞、戦闘中によく言えるもんだ。
うーん……剣士の中ではなかなかの腕前なのだろうが、そもそもがドラゴンの特異な肌はそこらの剣では傷ひとつつかない、ということをいい加減わかってほしいものだ。
ドラゴンに傷をつけられるのはドラゴンだけである。
たいてい俺を倒しに来る奴はそこに気付いて帰ってくれるのだが、コイツは昨日からテントを張って泊まり込みをしてまで俺を殺しにかかるのだ。
やる気は認めるが、こっちまで気が滅入るからそろそろご退場願いたい。
「そういえばお前、テントは何処へ行ったんだ?」
「這竜よ、貴様は今から私に殺されるというのに、最期の一言がそれか? 私のテントならそこに…………って、無い!無いぞ!」
女剣士は元あった場所にテントが無いことに気付き、キョロキョロ辺りを見回した。
「な! 貴様いつの間に!」
女剣士は俺が尻尾にテントをぶら下げていることにようやく気付き、自分のテントに向かって走り出した。
テントを無理矢理引っ張り、返せと嘆く女剣士。
「さよならだ、ドラゴンの腰痛解消をした女剣士よ!」
俺は尻尾を一振りし、女剣士を元来た日の出の方角へテントごとふっ飛ばした。
女剣士は最後に何か捨て台詞を吐き、空の彼方へと消えた。
ちょろいな。
二度目の生誕から一ヶ月。
日本で平凡な人生を歩み、その生涯は一瞬にして幕を閉じてしまったが…………ドラゴンとして異世界に転生したこの人生も悪くない。
ただ、ひとつ言いたいことがあるとすれば。
俺、ドラゴンなのに飛べないんだよなぁ。