複雑・ファジー小説
- Re: ホワイトリアの騒音旋律 ( No.2 )
- 日時: 2015/07/20 15:07
- 名前: リキュール (ID: 7D2iT0.1)
prelude =前奏曲=
1
———秋晴れの空は美しいが、俺の心はちっとも晴れてない。
水がたっぷり入った木のバケツを両手で持ちながら、ホワイトリアは深く深く息を吐く。
『無理だろこれ。初めからハードすぎるぞ』
『はい、弱音吐かなーい。バケツひとつなんだからがんばんなさい!』
『ねーちゃんが化け物なんだよ! これ三つとかマジ!?』
誰が化け物じゃ! と前方から罵声が聞こえる。
———いや、本当に化け物だあの人。
バケツ三つを難なく運びながら叫ぶ体力を持つ子供仲間に、ホワイトリアは冷や汗をながした。
ホワイトリアは村人である。
今日でちょうど生まれてから十二年になり、村の子供の仕事〝水くみ〟に参加することになったのだ。
村と川は少しばかり離れている。歩幅の小さい子供ならなおさらだ。
ホワイトリアはその距離を愚痴るが、また応援の言葉が飛んできて、涙ながらに口をつぐんだ。
———くそ、地獄耳め。
———ていうか、俺からバーバラねーちゃんまで、結構距離あるよな?
———ほんと、何者なの。ねーちゃんて。
———・・・・・・ただの山の村人なんだろうな。
山に住む人間をなめてはいけない、と母から教わった。
曰く、遠くの獣の声をはっきり聞き分けるだとか。
曰く、ほとんど見分けのつかない毒草と薬草をえりわけるだとか。
曰く、木の上も走れるだとか。
ホワイトリアも子供だが山の者だ。視力や体力、聴力には、街にいる人間より自信がある。
が、それさえも同じ村の者を前にことごとく崩れ去ってしまう。
バーバラは自分より三年早く生まれている。
そのぶん山人の五感が発達しているのは理解しているが・・・・。
———なんだかなぁ。
———いつまでも応援されるってのは、なぁ・・・。
ホワイトリアは胸のもやもやに首をかしげながら、ごまかすように大きく一歩を踏み出した。
数秒後、小石が容赦なく足に突き刺さり、悶絶し、またもバーバラが駆け寄ってくるのだが・・・・・・・ホワイトリアはまだそれを知らない。