複雑・ファジー小説

Re: ホワイトリアの騒音旋律 ( No.3 )
日時: 2015/07/18 18:04
名前: リキュール (ID: 7D2iT0.1)

prelude =前奏曲=



2


『はぁっとおぉ!!』

貯水樽の前にバケツを置くと、離した手に我慢していた痛みが広がる。
手は赤く、石を踏んだ足はまだ痛い。
ろくに村の外に出ていなかったからか、でこぼこした山道はかなりこたえる。
革靴を買ってもらわないと、と真剣に考えていると、ふと頭に柔らかい重みを感じた。

『はー、もー、私の弟分はなさけないわねー。弟子の名前解いちゃうぞ!』

バーバラが自分の髪をなでている、と理解すると、ホワイトリアはたちまち顔を真っ赤に染め、細くもひきしまった娘の腕を振り払った。
慌てて立ち上がったホワイトリアを、バーバラはおかしそうに笑って見た。

『あらまあ、あんた私になでられるの嫌いだっけ?』
『嫌い! ・・・・・・じゃ、ないけど、えっと・・・・いや、嫌い!! 弟子じゃないし!』

バーバラはにやにやと笑う。
ホワイトリアは今度は怒りに頬を紅潮させて、顔をしかめそっぽを向いた。

『あ、言い忘れてたけど、今日の仕事〝水くみ〟だけじゃないからね』
『ええ!?』

思わず顔をもどして————しまった、と思った。
あっという間もなく細い腕で頭をしっかりホールドされ、身動きが出来なくなる。

『ちょっ、バーバラねーちゃ・・・・・・ッ!?』

同時に頭をけしてひかえめではない胸におしつけられていることにも気がつき、先ほどとは別の意味で顔を紅葉に染める。
バーバラはそんなホワイトリアを抱き、相変わらずほほえみながら言う。

『ホワイトリアは私の弟だよ。私、思ったもの。ホワイトリアが生まれた時。あ、この子、私の弟だ、って』

バーバラの声が聞こえる。
胸に押し付けられた右耳から。
赤みが引いていく左耳から。
両側から、それぞれ、くぐもった声と鮮明な声が聞こえ、奇妙な空間へ転がり込んだ感覚に陥る。

しかし、それもつかの間だった。
急にひきはがされ、ホワイトリアとバーバラが向かい合わせとなる形になる。

『ホワイトリア。十二歳、おめでとう』

十二歳になる———それはこの村で『一人』として数えられるようになる事。
それまでは親と合わせて『一人』だったのが、一人で『一人』になる。

儀式もなにも無いが、村の一員として、働いたり・・・


・・・ときに、戦争に赴くことになる。


ホワイトリアは目を向けてくるバーバラを見た。
バーバラはそれを見つめ返し、言った。


『んじゃ、次の仕事〝草取り〟よろしく』
『今の流れからそれやるの!?』