複雑・ファジー小説
- Re: ホワイトリアの騒音旋律 ( No.8 )
- 日時: 2015/07/19 16:49
- 名前: ・ス・ス・スL・ス・ス・ス[・ス・ス (ID: 7D2iT0.1)
名前はミスです。すみません。
lullaby =子守歌=
2
「煙吸っただけだと思うけどね」
「はい」
「もう少ししたら目え覚ますんじゃねぇか」
「はい・・・」
「倒れた子供を助けるなんて、あんたたち珍しい奴らだねぇ」
「まあ・・・・」
「この街の家出少年かもねぇ。ま、拾ってここまで世話やってやったら、家まで探してやんなさいよ」
「はあ・・・」
「恰好は綺麗だからね、中級貴族かもしれないよ。貴族でなくても、いいとこのおぼっちゃんじゃねえかね」
「・・・もしかして、俺たちがお礼金目当てに子供を助けたと?」
「いんやあ、隠さんでもいいよ」
「・・・・・・」
実際そのとおりで、ナイルはぐっと言葉に詰まる。
———まあ、その本人は豚と一緒に市場(バザール)にいっているんだが。
起きたら伝えて、と面倒事を押し付けていった旅仲間に、ナイルは巨体をかがませ溜息を吐く。
駆け込んだ医院は決してお金を稼いでいるようには見えないボロ医院だった。
土を塗った壁と石をつめただけの床は寂しく、窓も一つしかないために薄暗い。
患者を寝かせる場所にはかろうじて麻布が敷いてあるものの、しかしそれだけである。
どうやら部屋は一つだけのようであった。
ジルコニアは医院に少年を届け、命に別状はない事が分かると、この街の最大の目玉『バザール』に行ってしまった。
まったく、少年を助けたのはジルコニアであるのに。
しかしあいつの身勝手は今に始まった事ではない。
ナイルは医者の説明を聞き流しながら、眼下の少年を見た。
ジルコニアが助けようとした人間は、まだ年端もいかない子供だった。
なめらかな肌は若く張りがあり、まだ開かぬ目は大きく、まつげが長い。紅く美しい髪が短く切られていなければ、少女と言っても充分通じそうだが、医者が言うには少年であるらしい。
ナイルは目を細め、少年の顔から服へ視線を移動させる。
貴族ほど豪華ではないが、庶民ほど貧しそうには見えない、簡素だがしっかりした作りの絹服である。
七分丈のズボンを止める役割ではなく、ただ単にポーチをくくっているだけの二本のベルトは、腰のあたりで交差させるように付けられている。
———トカゲ・・・いや、竜(ドラゴン)か。
不思議なのは、その文様だった。
服のすそと袖にある刺繍。夕陽色の太い糸で、デザイン化された翼竜が描かれているのだ。
他の模様と一緒に、ぐるりと一周するように縫われている。
———これは見たことないな。どこかの民芸品か?
「あ」
ふと、医者が短い音を発した。
何事かと医者を振り返れば、どこか呆けたように空中を指さす。
その方向には少年が横たわっているはずであり————
———そして、その指は横に動いた。
「あ」
入口を、正確には走っていく少年の後ろ姿を見て、ナイルも短く音を紡ぐ。
「あーあ・・・」