複雑・ファジー小説
- Re: ホワイトリアの騒音旋律 ( No.9 )
- 日時: 2015/07/20 16:15
- 名前: リキュール (ID: 7D2iT0.1)
lullaby =子守歌=
3
山のふもとの小さな街。
小さいと言っても王都の近くで、巨国を目指す旅人で年を通してにぎわっている。
そんな中有名なのが、商人たちの露店の集まり『バザール』である。
王都へ行く途中の商人が、傷物などの欠陥品を安く売るうち、自然に出来た物だ。王都よりも安く気軽に買えるとあって、今ではバザールのためだけにこの街に来る者もいる。
ホワイトリアの村の者たちもその一部であった。
ホワイトリアはまだ十二に達していなかったために直接来ることはなかったが、たびたび山を下っていく大人たちの華やかな話を聞くたび、あこがれをいだいたものだった。
だが—————実際に今、よろこぶことが出来るほど、ホワイトリアは冷静な状態ではなかった。
いや、そもそも今走っている大通りがバザールだとも気が付いていない。
大勢のバザール客で満ちている。
歩くのも困難な、混雑した場所だが、他の客を押しのけて無理やり走る。
裸足が石を踏むが、その痛みは感じない。感じられない。それほど混乱していた。
———なんだ・・・・なんだ!?
———ここはどこだ? どうして俺はここにいるんだ・・・?
———あの黒い人が助けてくれたのか?
———だったら・・・・だったら・・・・村の人たちは・・・・?
———・・・頭がぐちゃぐちゃだ。
息が切れる。
器官が痛い。
ひゅう、と息をすったところで、足を滑らせ盛大に転んだ。
『いってぇ・・・』
頭を混乱させないために走っているのではなく、途中から走っているだけになっていた事に気が付き、自嘲気味に笑った。
客はまばらになっている。
どうやらバザールの端まで来てしまったようだ。
ひゅう、ひゅう、と息をしながら、我ながら馬鹿をやった、と立ち上がる。
否————立ち上がろうとした。
立ち上がろうとして、目の前に女性が来ている事に気が付き、動作を止める。
———誰?
視線を合わせて、その瞳がバーバラと同じ金色である事にどきりとする。
が、流れるような銀髪は似てもつかないし、そもそも顔立ちが違う。
半分がっかり、半分好奇に思いながら、ホワイトリアは女性を見る。
「×××××?」
女性は口を動かし、ホワイトリアの知らない言語を言葉にする。
———外国の人か?
———バザールだし、旅人だろう。
『・・・えっと』
「・・・××××××、×××」
『あの、道なら、俺なんもしらないんで』
「××・・・×××?」
身振り手振りで話せない事を説明するも、女性は理解した様子を見せない。
———文化が違うから身振りも通じないとか、バーバラねーちゃん言ってたっけ・・・。
一瞬山火事の事を忘れながら、ホワイトリアは冷や汗を垂らす。
道行くバザール客に目を泳がすも、そこは他人であり、助けてくれる人などいない。
と、おもったのだが————
『なんだ、古代語じゃない』
『へ?』
自分の言語を話したのは、外国の者であるはずの女性だったのである。
『なんで古代語知ってるの? ていうか、この言葉って滅びたんじゃなかったっけ』
『えっ? え? え?』
落ち着きかけていた混乱がリバウンドして戻ってくる。山火事や医院や女性や黒人の記憶が入り混じり、ホワイトリアはなにがなにやら分からなくなった。
そして、喧噪のなかに薄ピンク色の動物を見つけ、固まった脳はさらに固まる。
———なんで豚がここにいるんだ?
思わず二度見するも、それは確かに豚だった。
バザール客の足を押し分け、こちらにむかってくる。
「×××。××××××?」
その子豚は女性のもとに駆け寄ってくる。女性は親しげに豚に話しかけ、豚はそれに答えるように一つ鳴いた。
『古代語ぉ? マジかよ、このボウズが?』
———なんで豚が喋ってるの!?
豚が言葉を話している事に気が付いた時、
とりあえずホワイトリアは考えるのをやめた。