複雑・ファジー小説

デルフォント物語 ( No.11 )
日時: 2015/07/25 15:41
名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: bGZR8Eh0)

 リーナス・シャクラ・アスラン。
 AR(破滅暦)二一五〇年 九の月に記す。
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 これを読む私へ
 以下の記事は、私が上記の時点で知っていることと、推理、いや憶測で書いたものです。真実とは違う可能性が高いので注意してください。
 この記事の目的は、あなたの記憶を呼び覚ますことにあります。幾つかのキーワードを埋め込んであり、最後まで読むと全ての封印が解けます。
 必要なら使ってください。不要ならば、再度封印することを推奨します。
 あとは、これを読んだ時点の、私自身の判断に委ねます。
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 この世界は、父や母のいた世界と、大した違いはなかったらしい。異世界の歴史書と比較してみるとハッキリ分る。
 この世界に宇宙人ラーバグラフが最初に来た、征服暦・紀元前三百年(西暦・紀元十五世紀の中期後半)までは殆ど違わない。
 そして、この時 彼等は神を抹殺した。
 この世界で、いや、恐らく 神を否定された全ての世界でも同じだろうが、人々は以前より更に 死を恐れるようになった。この世界で生物学、生命工学やそれに類するモノが急激に進歩していったのは当然の結果だ。
 それは、父や母の世界で進歩した、機械工学、電気・電子工学や光・磁気工学のレベルに匹敵するという。
 この世界で当たり前に存在しているホムンクルスなどの人工生命体が、父や母のいた世界には、全く存在しなかった。製作しようとする意識さえなかったと言っていた。
 その代わり、父や母のいた世界の得意分野は全くダメなのだから面白い現象だ。
 宇宙人ラーバグラフは、西洋において『中世の暗黒時代』を消し去った。

 父が言っていた。「中世ヨーロッパの神、というか教会は、狂気じみていたからな」と。(ちなみに父の先祖は東洋人だったらしい。当然ながら当事者ではないから、単なる感想に過ぎない)
 調べてみると、確かに『魔女狩り』を許して『文明を破壊する』ことを後押しするような神なら、そう言われても仕方ないだろう。
 この世界には、少なくとも私には、全く関係のない事柄だけれど。
 彼等は、自らの力を示すために地球を弄って 今の状態にした。

 神を殺すのは簡単だ。否定する確かな証拠を見せれば良い。
 ラーバグラフは「我々は神ではないが、人間を創った」と言いそれを証明し、世界は無数に存在することを証明した。
 彼等は、その『力』の示すため、北極と南極を入れ替えた。つまり地球を百八十度回転させ、自転速度を二十四時間ちょうどにした。公転周期を三百六十日ぴったりにし、そのせいで一箇月は全て三十日になった。
 ああ、忘れていた。こちらが先だった。誤差が面倒だったらしく、真空中の光の速度を秒速三十万キロメートルとした。これで、時間と長さの基準が確定したのだ。

 ラーバグラフは、その後にも何度もこの世界を訪れた。その都度、小さな修正を加えて、完全征服する頃には、父や母のいた世界とは大きく かけ離れたモノになっていた。
 そして七千百五十年前(征服暦元年)、彼等は私達の住む この世界に住み着き(現在も運用されている施政システムを使って)ヒトのあり方を管理し征服した。それは、この世界が滅びるまでの五千年もの長い期間続いた。
 ラーバグラフは この世界に安寧を与えた。少なくとも表向きは、戦争のない、安定した世界政府が創られた。

 この世界を征服した最初の頃、彼等ラーバグラフは、世界間の交流を黙認していた。父や母の先祖は最初の頃の移住者だったらしい。
 ところが征服暦三千年頃から方針が変わり、世界間の交流を忌避するようになった。しかし、その頃には異世界の人間が 既に数多く移住してしまっていた。
 元いた世界に嫌気がさして、この世界に(逃げて)来た者も多くいた。
 こちらの世界に興味を持って、移住して来た者達もいた。
 彼等は集落を造り暮らしていた。この世界の技術を勉強していた父や母の先祖達(後者の部類)は、情報の共有や校勘の必要性から、常に複数の、別系統の集落と連携し合っていた。
 そう、比較的近辺の集落にいながら、父と母の持っていた知識・技能は全く系統が違うものだ。収集した情報の内容も当然大きく違っていた。
 征服暦二千年頃に先祖達の集落郡は、今はもうない侯爵家に強く誘われて北半球の地に移住していた。
 先祖達は知らなかったが、征服暦四千五百年頃から南半球では中央局(宇宙人のこの世界での本拠地)の指示で異世界人狩りが密かに進行していたらしい。三百年で南半球の異世界人は完全に掃討されたという。
 宇宙人は、この世界にいた異世界人の絶滅を図っていた、だけではない。既存の、十万以上もあった異世界の殆どを次々に破壊していった。征服暦五千年近くには、異世界は十も残っていない状況だったという。

 そして征服暦五千年目のその日、大絶滅(ラグナロク)が起こった。
 南半球と大西洋が一瞬で消滅した。

 大絶滅に関して、父母は事故ではない可能性を抱いていたようだ。宇宙人ラーバグラフによって滅ぼされたのではないかと。

 父のいた世界にも、母のいた世界にもステラ・システムはなかった。というより、ステラ・システムは、この世界特有の技術なのかも知れない。

 父と母のいた世界では、同じエネルギーシステムが使われていた。核融合システムという。元は兵器として開発され、その下位技術の兵器は実際に戦争で使われたそうだ。中々効率の良いシステムだが、危険度は高い。初期には、度々事故があったという。

 私はステラ・システムについて、大きな疑問を持っている。ラーバグラフはこのシステムについて、本当はどこまで理解していたのだろうか。
 宇宙人が使っていたエネルギーシステムは、反物質システムという。凄く効率の良いモノだと記されている。と同時に、危険度も核融合システムより遥かに高かったようだ。
 それに対し、ステラ・システムはとても安全だ。システム自体はエネルギーを出さないので、破壊力は無い。武器にするにも、運動を起こさせるためにもエネルギーに変換する装置が要るのだ。しかしステラ・システムは非常に効率が悪い。
 宇宙人が完成させた(現存しない)最も効率の高いステラ・エンジンでも、理論値の三十パーセントに満たなかったそうだ。彼等の技術力では、これ以上効率を上げられなかったのかも知れない。
 ラーバグラフは私達に、このシステムは大気圏内だけでしか使えないと言っていたが、それは疑わしい。ステラ兄弟の原書には『エーテルとは、宇宙に蔓延している未知の物質(星間物質)、または静止した原素(重力子)だ』とあるのに、なぜ大気に縛られるのか、その理由が分らない。

 父と母の住んでいた世界は もう存在しない。
 父母は当初、彼等のいた世界は核融合システムの暴走で滅んだのだと思っていた。
 その後、そのシステムを宇宙人が暴走させたのではないかと疑うようになったようだ。
 私は、それは違うと思っている。証明する手段はない。しかし、この方が合っていると思う。
 宇宙人によって滅ぼされた、には違いないだろうが、宇宙人の攻撃によって滅ぼされた。が正しいのではないだろうか。宇宙人がそこに赴き、戦争をしかけ、そして滅ぼした。
 理由は判らない。
 いや、今の私には幾つかの可能性を思いつける。
 
 一つ目は、可能性としては無くもない。という程度か。
 この世界の人間が、宇宙に進出しようとした形跡が、はっきりとある。
 滅ぼされた異世界の中には、その属する太陽系内に居住可能な惑星を見つけて移住したり、宇宙空間にコロニーを造って居住していた例が数多くあった。また、太陽系外にまで進出した世界も 少なくない数あったようだ。
 この世界の者がそれを学んでいたとしたらどうだろう。ラーバグラフは、自分のテリトリーを侵されて黙っているような生物だろうか。

 二つ目は、こちらの方が怪しいかも知れない。
 核融合システムを持っている世界ある。その世界の人間が、ここでステラ・システムを学び元の世界に戻った可能性がそれだ。
 そして、その逆の場合はどうだろう。核融合システムは強力な兵器でもあるのだ。
 ラーバグラフは放って置くだろうか。

 三つ目は、あり得そうという程度だ。
 宇宙人ラーバグラフは、異世界技術での『ステラ・システムの完成』を恐れたのではないだろうか。
 現存のステラ・システムの効率は、最高でも二十パーセント程度だ。それでも、あの巨大な飛空艦を音速を超える速度で飛ばせるのだ。もし効率を八十パーセント以上に出来れば、局所的な空間の拡大や縮小を起こし、理論的には超光速も可能だ。
 現に私は五十パーセント程度にならば効率を上げる技術を持っている。但し実現するには相応の工作機械が必要だ。この世界にそれは無い。

 私は、とても不安だ。
 宇宙人ラーバグラフが この世界から消えたのは『破滅の前だったのか、後だったのか、それとも破滅と同時だったのか』との疑問だ。
 同時だった ならば良いのだけれど。
 この世界でならば『ステラ・システムの完成』が可能だと思っていたのではないだろうか。そして、もしラーバグラフが、この世界が『まだ生きている』と知ったならどうするだろうか。
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