複雑・ファジー小説
- デルフォント物語 ( No.12 )
- 日時: 2015/07/25 15:10
- 名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: bGZR8Eh0)
大絶滅で生き残った人々の、それこそ必死の努力で、それでも千年以上の時をかけて、現在の この世界がある。
今のような安定期(この状態を安定期と呼ぶのは不謹慎かもしれない。群雄割拠の時代、いわば戦国時代なのだから)を創り出した最大の功労者は、皮肉なことに宇宙人が構築した安定した施政シルテムと、それを運用する大貴族達の貢献にある。
施政システムは、中央局(宇宙人ラーバグラフによる最高位部署)が消滅しても正常に機能し続けた。行政府(現・中央府)、税務府、教育府、世界管理府(これは事実上消滅した)色々問題はあるものの、存在し続けただけで奇跡に近い。
この二千年余りで、高位貴族達(北半球に造られた 新・首都に近い地域の貴族)は、積極的に施政システムに参画していった。
先祖達がいた地域(現・東部大陸の北部)は、首都から遠く離れた いわば辺境であったため政争に巻き込まれることはなかった。
侯爵家の保護下にいた先祖の代表達が男爵の地位を得たのは大絶滅の前だった。今で言う与力男爵だ。侯爵家も先祖達も比較的穏やかに生活していたと言える。
父と母の両領家とも、大絶滅後は子爵として独立していたが、侯爵家の保護下にあることに変わりはなかった。
父と母が出会ったのは偶然だ。侯爵の仲立ちで結婚した後に、両家が異世界技術の後継者であることを知ったのだという。
しかし、異世界技術の後継者であることは深く秘匿されていた。先代にも、今代の侯爵にも隠していた。
大絶滅を経て、異世界の技術を正しく継承する者は殆どいなくなった。例外が父と母の家系だ。
では、なぜ異世界の技術を誤りなく継承出来たか。父と母の家系では、継承技術を小さな人工脳(チップ)に写し取り、それを後継者の脳に移植する。という同じ方法で知識と技能を伝えて来たからだった。
父と母の世代には、もう 他には異世界の技術を継ぐ者はいなかった。
父母から生まれたのは、私一人だけだった。
二人は、母が四十歳になったのを機に、私の脳に二家分の知識と技術、そして この世界で研究して得た旧時代の技術(宇宙人のモノや、他の異世界から受け継いだモノ)のチップを埋め込んだ。加えて、多大なデータが負担をかけないよう考慮し私自身の脳への補完用チップまで埋め込んだ。
その時点で私は、たぶん残存世界一番の知者になった。まだ七歳だった。
私が失われた異世界の技術に興味を持って、異世界人の子孫の家々を訪ねて回っていたことを知る者はいない。
書物だったり、品物だったり、伝承の形で残っていたものさえあった。私は、活動範囲内(旧集落群、十二の領地)に残っていた異世界技術の多くを入手した。
父の持つ技能の中には『記憶改竄』がある。私が彼等の技術を持ち帰った事を覚えている者はいない。
そして、デルフォント子爵家との出会があった。
あれは、侯爵家にデルフォント子爵が表敬訪問していた(らしい)時と、父母が侯爵家に呼ばれて訪れていた時が たまたま一致したことにより起こった。
父母に同行していた私のことを、何故かデルフォント子爵が気に入り「公子の妻にしたい」と言い出したのだ。
話はとんとん拍子に進み「公子が十四歳になったら挙式する」という事になり、婚約契約式のためデルフォント領の城に赴く事になった。
父母は気付いていたのかも知れない。何故なら、私の荷物『結納品』の中には、我家にあった全ての異世界に関するモノが入っていたからだ。
そして、故郷にあった筈の私の存在データの全てが(父母によって)抹消されていた事を知ったのは、侯爵家と十二の関連貴族が中央府の軍隊により滅ぼされた後の事だった。
父母の処置のおかげで私は生き延びたのだ。
私がデルフォント領の城に着いた時。公子は病の床についていた。
手持ち無沙汰になった私は城内を散策した。その時出会ったのが、数少ない同世代の少女トーラ・エリン女官見習いと、頑固な技職長コブト棟梁だ。
すぐに友人になった。
公子の病状が良くないとの噂が流れ始めた。
この頃にだったと思う、侯爵家と十二の貴族が中央府の軍隊のにより滅ぼされたことを知ったのは。そして私の存在データが消去されていたことも知った。
------ 以上で 記憶の封印は、全て解除されました。