複雑・ファジー小説
- デルフォント物語 ( No.16 )
- 日時: 2015/07/29 13:07
- 名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: yIVvsUU5)
五の月二十一日
それは三人が『人身売買ギルドのアジト』攻略法の詳細を、自由民の頭領達と検討している時だった。
タゴン・改は予定数より多く完成し(五十七体)、分配も済んだらしい。
「この、タゴン・改を先頭にすれば……、七ケ所一斉にやれば良いわ」リーナスの話が終わった。
(さて、彼等はどう出るか)回答待ちだ。三人は寛いでいた。
午後十時二十分。
戦闘は突然始まった。
「城が燃えている!」
見張台からの緊急連絡だ。
驚いて会議中の皆が、窓から見下ろすと主城の尖塔が燃えていた。
「何があった」
「火の玉が何個も、あれは、きっとガーディアンだと思う」「それが城に、城の尖塔に突っ込んだんだ」
「信じられん、ガーディアンを弾丸代わりに使ったと言うのか」
「あの三隻の飛空艦隊か」
「くそ。まさか攻撃して来るとは思わなかった」
「いや、違う」「形状が違うのが、もう一隻いる。こいつが攻撃して来たんだ」
「あいつらは、税務府の艦隊じゃなかったのか」
「行政部に『貸し出し』されたモノかも知れんな」
エミール達三人は、結論を頭領達に任せ『青い雷撃』に搭乗して跳び出した。
その時、猫から連絡が入って来た。
「遅れてごめんなさい」
「その艦はジエッツ侯爵のよ」
「それについて、提案があるのだけれど……」
地上ギリギリを飛ぶ。
山の陰から子城の影に入り、主城に回り込む。
後部を向けている三隻の飛空艦を、肩の砲で撃ち落した(ように見せ、後は猫に任せた)。三隻は豪快に炎を噴き出して落下した。
旗艦は他と形状が違うので明確だ。正面を向いている。脅しに操航エリアを、威力を落して砲撃し、主城の屋上にいる黒鎧(敵だ)を機銃で軽く攻撃した。
詳しくは判らなかったが、城の者 幾人かが敵と対峙していたように見えた(この時、執事長、秘書官とその配下達が、敵の正体を探っていた。敵自らが、己の素性を明かすように、話題を操っていたそうだ)。
視覚内の敵は皆、旗艦に逃げ込んで行く。
城内に入り込んだ敵は、猫から無力化した。と連絡があった。
敵の指揮官らしい服装が乗込んだのを見計らい、砲撃を加える。
グラリと艦が傾斜すると(もちろん猫の仕業だ)艦尾から飛空艇が飛び出した。これも予定通り。海の方へ逃げる。これは、好都合だ。
旗艦の駆動部を一射して、炎を噴き不時着したように見せかける。後は猫に任せた。
飛空艇は、かなり速い。高速艇だ。
(これくらいなら、剣で斬り落とせる)と思ったエミールは『青い雷撃』を一気に八千メートルの高度まで上昇させて、滞空計測。
音速の二倍で降下した時の、敵との接触位置を割り出し、艇の中央より少し前部を狙って斬り裂くつもりだったが、衝撃波攻撃に切り替えた。(猫が、その飛空艇は壊してしまうには勿体ないわ。と言ったからだ)
再計測。音速の二・五倍まで加速し、一直線に艇に近接して急旋回する。衝撃と、その轟音で飛空艇がフラフラっと揺れて失速し、不時着した。(猫さん、後は頼むよ)
当然ながら、指揮官は飛空艇より更に高速な、脱出舟(ポッド)を使った。
これには、強力な電磁バリアが張ってあるようだ。
(でもね、そんなモノは何の役にも立たないのよ)トーラが哀れみを込めて見た。
(強力な電磁バリアを無効化する兵器なんて、きっと始めてでしょうね。よーっく、覚えておくが良いわ)リーナスが にっこりと微笑んだ。
(これには驚くだろうな)とエミールは思いながら、一撃だけ。だが、発射ボタンは二度押している。威力を落として当て、今回は逃してやる。
弾丸(?)は舟を掠めて、すぐ先で大爆発。直撃したら木っ端微塵だ。(これを見れば、飛空艦の撃墜にも真実味が増すだろう)
撃ち落としてしまっては、せっかくの猫の計画が無駄になる。
これでジエッツ侯爵は、デルフォント家の恐ろしさを身に沁みて思い知ったに違いない。「今度は殺される」と。わざと外した事は、彼にも理解出来た筈だ。
最初の飛空艦に一撃を加えてから、約三十分で戦闘は終了した。
獲物は、飛空艦四隻。内一隻は特別仕様だ。諸々の装備品も使える。
後で知ったことだが、黒鎧の兵士・七千六百人も使える。指揮官設定は、もう猫が変更してある。
(リーナスの調べによると、黒鎧の兵士は人間ではない。ホムンクルスでもない。
擬似生命体の運動脳と その神経を使った、所謂オートマタの一種らしく、命令通りにしか動かない。黒鎧は外皮と同じで脱着できない。だが改装は出来るらしい)
主城のことが心配ではあったが。まだだ。
本来の計画はこれからだ。今、帰る事は出来ない。
エミール達は本来の計画である、人身売買ギルドの掃討準備にかかる。
主役の自由民に連絡して、上空で待機した。
「アルバ自由民大頭領殿」
「どうなったのかな。他の頭領との話し合いは済んだかい」エミールが結果を求めた。
「大頭領はやめろ。頭領代表で良い」
「リジーのテープも見た。これで十分だ」
「全員一致で、お前達の計画に乗ることになった。もう三十分もすれば、全ての配置が完了する」
「了解。こちらも準備に入る」
午前0時を少し過ぎたころ、リジーから連絡のあった通りベガン伯爵家御用達の飛空船が来た。
「馬鹿じゃない。こんな目立つ船を使うなんて」と呆れ声でリーナス。
自由民軍に攻撃開始の合図を発信し、眼下にいる船を難なく制圧した。
そして、アジトの出入口(裏口)を攻撃して塞いだ。
もうひとつの出入口(正面)に向かいながら、三人で再確認する。
「そうよ。正面からの突撃は、彼等『タウラ山の自由民軍』でなくてはならないわ」
「これで自由民は、もう山賊じゃなくなる」
「これこそが、本当の目的だものね」
正面攻撃隊は、タゴン・改を先頭に進んだ。十体のタゴン・改は壁になる。と同時に、アジト入口砦に設置された兵器を無力化することが出来る。少しづつ、確実に侵攻して行けば良い。
味方には被害者を決して出さない事と、アジト内の施設は なるべく壊さないように頼んである。
アジトを完全制圧し、ギルドの首領や幹部、ベガン家関係者を拘束し、二千人以上の領民を解放して、ここの作戦が完了した。
アブガン子爵領内等に散在する七ヶ所のアジト(ここに比較すれば小さい規模らしい)でも、同じように攻略している筈だ。
そして、全てのアジトの「制圧が完了した」という連絡が揃ったのは、翌朝の午前五時過ぎだった。ゆっくり時間をかけたのだ。
五の月二十三日
デルフォント子爵の葬儀が略式で執り行われた。
親族(エミール、リーナス、トーラ)と閣僚の代表、そして『タウラの自由民』の代表(大頭領)が列席していた。
あの時、子爵は尖塔で執務をしていたらしい。
尖塔五本に対し、ガーディアン八体をミサイルのように打ち込んで破壊した。
併設されている倉庫は無事だった。ということは、最初から倉庫が狙いだったようだ。現場にいた秘書官、執事長、次席秘書官、次席執事長も同意見だ。
エミールは、自分の心の中に 何故悲しみが無いのかを知っている。仕方がない事も判っている。だが肉親の死を悲しめないのだ。苦い罪悪感が残った。
式の後、自由民大頭領が三人の所へ来た。「……。すまねえな、四日後にサラマンド(アブガン領主のガーディアン)が来る。これ以上やると、仲間に死人が出る」
「いいえ、充分よ。後はこちらで何とかするから安心して」とトーラが微笑んだ。
「それより、お願いしてた『アブガンの商人街』のこと。誰も逃さないように手配してちょうだいね」リーナスが真剣な顔で確認した。「彼等は、許せない」
「負けるって、ことは考えてもいないか……」アルバ大頭領は言いかけて、頭を掻きながら返事に変更した。「ああ、手配は済んでるよ。誰も逃がしゃしねえ。特に『死の商人』共はな」