複雑・ファジー小説

デルフォント物語 ( No.19 )
日時: 2015/07/29 13:39
名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: yIVvsUU5)


 五の月三十日
 大きな会議室だ。
 ここにはデルフォント領国の首脳幹部十二人と六色の猫(金瞳)、そして新設された親衛隊の兵師隊十二人が集まっている。会議室の外にも兵士隊六人が警備に立っている。
 これからデルフォント領国の、将来のの基本方針を決めるのだ。
「まず、決めなければならないことを済ませてしまおう」とエミールか切り出した。
「出島については、既に準備にかかって貰っていますが、問題はありませんか」リーナスが改まった顔で質問した。
「順調に進んでいます。ところで『トーラ美術館』の敷地は あんなに広くする必要があるのでしょうか」ラズリ警務長が発言した。
「あれでも、不安なのですがね」執事長が答えた。「秘宝館も拡張が必要です」
「出島の管理と政治関係については、最終的にワンド秘書官に最高責任者になって頂きたい」エミールが秘書官に向かって指示した。
「そうね、対外的にはデルフォントの顔は変えない方が良いわね」「その代わり内政は、レドウ秘書官。お願いしますね」リーナスとトーラが追加指示した。
「ラズリ警務官は出島の、トグル警務官は内政の治安維持をお願いします」とエミール。
「部下の選任は、それぞれにお任せしますが」とトーラ。「出来るだけ新人を使ってください。訓練も含めて お願いしますね、育成が必要だと思いますので」
「両執事長は、済みませんが兼任してください。全てを把握して頂く必要から、分けるのは良くないと判断しました」とエミール。「お二人には、国政のバランサーになって頂きたいと思います」
「うん。適任だね」「お願いしますね」リーナスとトーラ。

「女官長。質問なのだけど。女性であることが惜しいという人材は、今迄に何人も ご存知だと思いますが」「現時点で、そう思われる方は おいででしょうか」とエミールが話題を変えた。
「目の前に。お二方おいでです」トエル女官長が答えた。
「いや。女官の中に」とリーナスが慌てて遮った。
「お二方以外では、……そうですね数人いますかね」レイナ女官長がトエル女官長に確認しながら言った。「中々頭脳明晰な娘がいます」とトエル女官長。
「今、領内にある学校は、初等校と高等校が二校づつでしたね」「それを各地区に造りたい」「高等校は難しいかも知れませんが せめて初等校は、そうですね二十校以上になるかな」「造って。男女関係なく学ばせたいと思っています」と三人が話した。
「大学も造りたいね。中央大陸の大学に負けないようなのを」とリーナス。
「色々な制約がないから、こっちの方が良くなるよ。きっと」とトーラ。
「学校を造るのですか」「教師もいないのに、どうするのですか」両秘書官が不安を示す。
「君達が居るじゃない」リーナスが二人を見ながら言った。「足りなければ、募集すれば良いのよ」
「大っぴらに出来ないなら、自由民のルートを使わせて貰えば良いのさ」エミールが続けた。「何とでもなるよ」
「農業、工業、商業の技能士。音楽、絵画、美術や工芸の技術士、動力系の技職士も増やしたい」「棟梁。伝手があったら有能なヒトをスカウトしたいの。紹介してね」リーナスが夢を語る、出来ない事じゃない。「棟梁や、技職系のヒト達にも、教師をしてほしいのよ。男女関係なくね」
「男女を無理やり同じ場所で学ばせる必要はないけれど、誰でもが学べる施設は必要だと思うの」トーラも述べる。
「対象は、領民全員ですか」とワンド執事長。「大変な経費がかかります」
「本当は、そうしたいところだけれど、無理だろうね」とエミール。「対象はアブガンだよ。領主関係者と商人街の子供達を教育してみたい」「ベースが出来てるから良いと思うけど、どうかな」
「まさか、側室を」ロイス医師長が驚いた顔で言った。
「そうよ。側室も対象よ。彼女達は、ある意味 自領から捨てられた人間だと言えるわ」「拾っても良いじゃない」トーラが笑顔で答えた。
「出来れば、商人街の子供も男女問わず全員ね」リーナスが続けた。
「しかし、側室の役目は……」トエル女官長が疑問を起こした。
「それは、本来正室の役目でしょ」「私達には無理だけどね」トーラとリーナスが苦笑しながら言った。
「他にも正室が来るかも知れませんし、側室にも子供を望む者がいるでしょう」とレイサ女官長がフォローに回った。
「側室だって人間なんだからね。子供を産む道具になるより、こっちの方が良いと思うよ」「才能はどこに隠れたいるか判らないからね、大規模に探そうよ」リーナスの希望は大きい。
「確かにそうですね。基本的な事を教えれば、才能の有無は判ります」「加えて、技能・技術・技職系の選択肢もあるとなれば、中々良い学校が出来るかも知れませんね」とランザ秘書官が賛意を示した。
「しかし、裏切りは起きないでしょうか」とトグル警務官。
「それは、心配しても仕方ないね」エミールが苦笑しながら言った。「やりたい者には、やらせれば良いさ」
 全猫は(そんな事は、絶対させない!)と誓った。
「親衛隊には猫達が、有象無象の教師より有能な者を検討している。執事や、女官の基礎教育程度なら、問題なくこなせるよ」エミールが猫達を見て、リーナスに向かって言った。
 猫達は頷いて了解の意を示した。
「その他については、色々案はあるのだけれど未だ考察中というところね」リーナスが全員に結論を促した。
「判りました。基本方針はこれで勧めます」ワンド秘書官が代表で答えた。

「あっと、そうだった。私達は明日から遊びに出かけるからね。後は宜しく」リーナスが会議を締めくくった。
 それは、彼等に対する 全権委任の言葉だった。