複雑・ファジー小説
- デルフォント物語 ( No.7 )
- 日時: 2015/07/27 12:41
- 名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: yIVvsUU5)
九の月十二日
三人は、工事中のガーディアン収納ブロックから『青い雷撃』(ガーディアンの名前)を出して来て、早速搭乗した。
「うん、全部依頼通り改造してある」満足そうにリーナスが言った。
中央の操縦席にエミール、左席にリーナス、右席にトーラが搭乗し、ハッチを閉めて離床すると、一気に加速した。
見物人の中には当然 棟梁がいる。新たに任官した元トーラの臣の五人と何故か、副医師長も来ている。
「すげぇ!音速まで一気に上げやがった」新たに副棟梁になったザナンが、計測器を見ながら喚いた。「あの三人、初めてなんでしょ。あの機体に乗るの」
「ああ」棟梁が、面倒臭そうに答えた。
「あの。あれって普通なんでしょうか」副医師長のロイスが恐る恐る訪ねた。
「あいつ等には どうって事ないんだろうな」
「!」棟梁の言葉にザナンが絶句した。
「あんなこと、普通の者がやったら即、墜落よ。操縦なんか出来る訳がねえ」
「……」ザナンには言葉が出ない。
「あ。音速の二・五倍になった」ザナンの持っている計測器を覗いて、次席執事長になったばかりのゴワンが言った。「あの機体の限界速度って、音速の二・五倍なんじゃ?」
棟梁は、ゴワンの言葉を無視して続けた。
「あそこにあるシュミレーション装置な」彼が顎で示す先には、二台のガーディアン搭乗シュミレーション装置があった。
「あいつ等、音速の五倍で遊んでたんだ」
「五倍って、でもあれって」ザナンには、その意味が判ったようだ。
「ああ、譲ちゃん(リーナス)が、勝手に弄くって設定を変えやがったみたいでな」「家(うち)の者にやらせたら、一分も もたずに気絶しちまった。両腕の骨にヒビ入れてな」
「何しろ、あれはGが、もろに来るからな」
「公子って凄いんですね」ザナンの勘違いに棟梁は苦笑いして言った。
「三人共だ。皆、出来るんだよ。しかも、的を一個も外してねえ」
「的って、あれは対戦式じゃ」
「そうさ。相手のガーディアンを全部倒してる」
「わっ。あのスピードで こっちに突っ込んで来てる」ゴワンが慌てている。
ザナンが計測器を覗くと、高度二千メートルから、どんどん速度の数値が下がって来る。高度千メートルで、突然機体の仕様が変わった。
「え、地上モードに変わった?」
「ここまで非常識だと、冷や汗も出ねえな」棟梁が空を見上げた。
「凄い急制動だ。音速を切った」ゴワンの実況が続く。「来た」「あ、また飛行モードに戻った」
地面スレスレを旋回。高度を少し上げて、ゆっくり地表に近付いて来て、地上モードでフワリと着地した。
「棟梁、音速の二・五倍しか出ないよ」ハッチを開きながら声をかけたのはリーナスだ。
「それが 限界なんだよ。この機体の」隣から声をかけながら出て来たのはエミールた。
「やっぱり、五倍は無理かぁ」トーラも続いて降りて来た。
「限界まで引っ張れば、ひょっとしたら出るかな、何て思ったんだけどな。ダメでした」リーナスが、棟梁に報告した。
棟梁が、額に手を当てて呻いた。
「お前達、あの急降下の時 何度乗り換えた」
「三度だよ。四度目でエミールに返そうと思ってたけど、間に合わなかった」リーナスが あっけらかんと答えた。
副棟梁ザナンには、会話の意味が判らなかった。
「……乗り換えた?」
「ああ、判らないか。操縦者が交替ったって事だよ」とトーラが説明した。
「着地は、エミールに任せようと思ってたんだけどね。減速が間に合わなかったの」リーナスが頭を掻きながら小さく舌先を出した。
「全く、玩具にしおって」苦笑いしながら棟梁が抗議した。
そういう問題か。とザナンは思ったが、賢明にも言葉にはしなかった。