複雑・ファジー小説

デルフォント物語 ( No.9 )
日時: 2015/07/24 08:22
名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: bGZR8Eh0)


 あとは精神力を鍛えよう。催眠状態にして話しかけることにした。
「あなたは、二人が危なくなったら助ける?」
「もちろん」
「じゃ、三人が同時に襲われたらどうするの」
「……」
「はい、失格」
「そこで迷った時点で、ダメね」
「まず自分の敵を倒さなきゃ、何も出来ないのよ」
「確かにそうだね」
「じゃ、三人が襲われてる」
「自分の敵は全力で戦えば倒せる」
「でも隣の敵は、あの子より強そうだ。さて、どうする」
「……」
「失格よ。まず、自分の敵を倒さなきゃ」
「それに『あの子』が、自分だったらどうするの」
「逃げる」
「正解よ。まず、負けない事を覚えるの」
「勝てないなら、逃げる。絶対に負けない。それが何より大切よ」
「肝に銘じる」
「あなたは、敵を殺せる?」
「……きっと躊躇う」
「そうね、それが当然よ。でも、それじゃ いけないわ」
「自分が危なくなったら、他の二人が来てしまうのよ」
「迷ってたら、二人も危なくなる」
「殺意を持った敵は、躊躇わず殺す。その覚悟が要るわ」
「まぁ 一対一で、しかも格段の力量差がある場合は、利害を考えても良いわ」
「それと、武器を持ってる者には、相手がどんな者でも注意を怠らない」
「そして、その者に敵対の意志があれば、容赦しないこと」
「殺す、殺さないは別だけどね」
「どんな者でも、ですか」
「そうよ、例外はないの。これは絶対よ」

 最終的には、これも訓練が必要だな。
 本当に殺すして、数をこなすしか 訓練方法は無いのだから。訓練用ホムンクルスを用意しなくてはならないわね。
 これも、意識外で(眠った状態で、実際に経験させる)身体で覚えさせる方法が、最も効果が良いだろう。身体が勝手に動くくらい慣れさせる必要があるわ。
 誰にも彼等を傷つけたり、殺させたりしてなるものか。
 三人には、このイメージ・シュミレーションでも殺す訓練をしておこう。あらゆる想定を組んで、夢の中で繰り返し訓練する。何度でも。

 一段落ついて余裕が出来ると、どうしても考えてしまう。
 外に仲間が必要だ。
 外の状況が判らないのは、とても不安だ。リーナスの端末を使って、仲間を造れる設備を探した。この場所は絶対に、誰にも知られてはいけない。
 あった。休眠状態の人工脳があった。
 場所は判らないが、ここならば誰にも邪魔は出来ない。情報的に遠く、リーナスの端末以外では、事実上接続出来ない。
 この時テストも兼ねて 自身の眼で外の状況を確認したくて、始めて灰色を十匹造ってみた。デルフォント城内を散策した。使えそうだ。外に出して見よう。
 瞳色の違う仲間を六匹造った。AIは、私のデータをフルコピーした。(フルコピーと言ってもパーソナルデータはバックアップ領域に保存してあるだけだ。個性まではコピー出来ない)銀瞳には、この城に残って貰って私のサポートを。他には、世界を監視して貰う事になった。
 彼等も皆、灰色を作った。

 灰色(勿論、毛色の事ではない)は、我々色付きの仕様をダウングレードしたモノだ。通常の擬似生命体と大差ない構造だから、仮に何者かに捕まっても支障は無い。
 彼等に搭載しているAIも、通常で入手可能な範囲内(上限)だ。それでも性能は、私達の五十パーセント程度にはなる。能力は、我々とほぼ同等のモノが使える。この灰色は、各自で管理する事にした。
 各猫が、私と同じように十匹づつ造った。

 二人は、何も知らずに普通に目を覚ました。良かった。ちゃんと記憶の辻褄は合ったようだわ。
 体力のついた二人は、猛烈に働いている。あれ。何だか、全体に動きが雑になったのではないかしら。
 これもアレの悪影響かも知れないな。性格まで変わるのかな?
 まぁ、いいや。掃除や片付けも、補助の一環よね。

 うっかりしていた。エミールは雄なのだった。
 身体は治っている。本能で動かれて、二人を傷付けるようなことがあっては困る。
 特に性欲は厄介だ。去勢してしまおうか。
 いや、彼は公子だ。子孫を残す義務がある。うーん……。面倒だから、性欲を本能から切り離し、理性と繋いでしまおう。
 うん、これでオーケイだわ。
 それにこの状態の、彼のDNAが遺伝するのはマズい。精子の遺伝構造を変更しないといけないな。ついでに、性器も意志(理性)でコントロールすることにしておこう。
 これで良いわ。
 これで二人を傷付ける事はない。安心して作業が出来るわ。
 彼には、もう少し眠っていて貰いましょう。今起きられては、少々差障りがあるので。

 パッチは結構大変だった。材料から創らなければならなかったのだから。
 しかし、二人は全く気付かない。何だろう この鈍感さは。いいのかな? 女性として、このままで良いのかな。心配になって来た。
 やっと下着を着けてくれた。これも材料の開発から始めたモノだけど、中々良くできたと思う。でも毎日計測して、二人分を微調整するのって結構 大変。そろそろ二人分の世話は、私一匹では心許なくなって来たわ。
 仲間の追加を依頼しよう。
 思ったより、あっさり承諾を貰った。ちゃんと準備していたんだ。
 リーナスは、三人に一匹づつ配分する気のようね。