複雑・ファジー小説
- 佐倉 茜・狂想曲 ( No.2 )
- 日時: 2015/08/01 19:34
- 名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: yIVvsUU5)
茜王国が建国して間もない頃のある日、茜は ふらりとメイド室のひとつに立ち寄った。
そこは、世界中のニュースを検索し、女王の要求を満足するための組織であるが、何を要求されるか判らないので、とにかく何でも珍しいものを探しているという、かなりいい加減な、しかし最重要な部署である。
五十人のメイドがパソコンを操作している。今日は、何か雰囲気が悪い。何かあったのだろうか。
「どうしたの? 何があったの」
メイド達は、始めて茜の存在に気付いて、説明を始めた。女王は無駄が嫌いだ。くだらない挨拶などしていたら叱られる。
「ウィルス? ハッカー? 何よそれ」
「ふ〜ん。私の国に、攻撃を仕掛けるとは、良い度胸ね」女王の眼が光り、メイド全員が震え上がった。女王の顔には、怒りと、しかし面白い玩具を見つけた子供のもうな微笑が浮かんでいた。
この時点では、彼女はパソコンについて何も知らなかった。メイドの中で、その系統について詳しい者が説明する。彼女が質問し、メイドが答える。それが何度か繰替えされた後、女王の命令がくだった。
「私に、プログラムを教えなさい」
数人のメイドが、女王の居室に赴き、レクチャーした。早朝の七時頃であった。
次の日の朝八時頃、茜は二枚のディスク持って来た。その一枚は、全く新しいOSのプログラム。もうひとつには、逆探知形アンチウィルスソフト『ウィルス・イータ』のプログラムだった。
「OSをこれに変えなさい。そんな中途半端なのは使わないで!」「……いや。そうね、何台か残してても良いわ。面白そうだもの」
メイド達は、驚愕の表情で自分達の主人を見上げた。たった一日でプログラムをマスターしたのか、それもOSを自作するほどに。代表のメイドが、震える手で そのディスクを受け取った。
「残したパソコンに、これをインストールなさい。ウィルスを喰い尽し、作成者のパソコンを破壊するわ」「ハッカーにも効くわよ。ここに入ろうとしたら、ボン! よ」
その日、世界中の国家秘密組織の情報部では、据付式のスーパ・コンピュータが次々に壊れていった。ソフト的にも、ハード的にも修復不可能なほど徹底的に。
そして、世界中のハッカー達にも。「間違っても『茜王国』は手を出すな」という、ひとつの大きなタブーが出来た。
以来、茜王国にサイバー攻撃を仕掛けるような無謀な者はいなくなった。
そして、「ウィルス・イータ」のダウングレード版(相手のパソコンを破壊する部分を削除したモノ)が、ネット販売されるや大ヒットした。一ヶ月に一度のアップデートに費用がかかる仕組みなのに、売行きは伸びるばかりだ。
その後、茜は面白がってウィルス・イータの上位バージョンを造った。
それはとんでもない化け物だった。ついでだが、それには隠し技として(茜も意識しなかった)ハッキング機能がある。世界中の機密は丸裸になった。まぁ、茜王国にとってだけではあるが。
そのソフトの名称は『デストロイ(破壊神)』という。