複雑・ファジー小説

佐倉 茜・狂想曲 ( No.4 )
日時: 2015/08/16 08:37
名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: yIVvsUU5)


 前作の後日談を記して置きましょう。
 あれほどの事があったのですから、ただで済む訳がございません。相応の処分がなされました。
 まずは、懲戒免職された者。当然ながら担任教師。同じく教頭、彼も『いじめ』を知りながら放置した罪です。いじめっ子の父親の市会議員も同じ罪で裁かれました。
 親権剥奪に課せられたのは、いじめっ子の両親。保護者義務放棄の罪は、いじめられていた女の子の保護者である親戚の夫婦。彼等は彼女の発する『いじめ』の訴えを無視し続けたのだから、当然の報いです。
 ああ、子供達はどちらも被害者として、県立の教育施設に居住することになりました。そして、そのまま学校に通いましたよ。
 校長は『いじめ』の事実すら知らなかったようで、管理責任不備により更迭され、別の学校で教頭からやり直しになりました。
 え、茜は裁かれないのかって。
 何故でしょうか? 彼女は、誤った事をした同級生を諌めただけです。罪になど あたる訳がないでしょう。

 五十年後のお話です。
 元いじめっ子は、成人して議員になりました。
 市会議員、市長、県会議員、県知事、国会議員、そしてニッポン国の大統領にまでなりました。彼が常に語っていた言葉があるそうです。「私は、卑怯者にだけは絶対になりません。どんなことがあってもです」
 事実、彼は どんな圧力にも屈することなく国をリードして行きました。そうあと三年。あと三年間 彼が大統領を勤めていたならば、ニッポン国は世界でも最高クラスの文化国家になっていたことでしょう。
 彼が五期目の途中で大統領を辞任したのは、ある低俗な週刊誌の記者が発した 軽い気持ちの質問が原因でした。
「大統領は、昔『いじめ』をしたことがあったそうですね」
「はい。ありました」全く躊躇のない即答に、記者の方が驚いた顔をしていたそうです。
「ああ。それが罪だというのであれば、私は 本日付で大統領を辞任致します」
 事実、彼は その日の内に辞表を提出し、引き止める多くの人々に謝辞を述べながらも決意を翻すことはなかった。「私は、卑怯者だけには なりません」と。
 詳細に調査すると、彼もまた被害者であることが判ったのです。
 雑誌記者は全国から猛烈な非難を浴び、会社を解雇されました。その記者の所属していた会社も、その親会社までもが連続して倒産したそうです。誰も その会社を信用しなくなったのが原因だそうですが、当然でしょうね。

 彼は、家に帰ると妻に事の次第を話しまた。
「まあ、仕方のない方ですねえ」妻は にっこり笑いながら受け止めました。
 入浴を済ませ、食後に寛いでいると 彼の妻が話しかけたのです。
「『茜王国』に移住しませんか?」
 妻の問いかけに、少し考えて 元大統領はこのように言いました。
「私などが 入国させて貰えるのだろうか」
「大丈夫ですよ。私は あそこの『メイド隊』の一員だったのですから、融通して頂けると思います」