複雑・ファジー小説
- 佐倉 茜・狂想曲 ( No.8 )
- 日時: 2015/08/07 15:51
- 名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: yIVvsUU5)
彼等は運が悪い。
港から船を出港させる時に遅刻して 船団に置いて行かれた。
いや。それ以前に この船の乗組員が問題だ。普通は三から多くても五種族だろう。九種族だなんて、普通あり得ないじゃないか。頭領が九人もいて纏まるわけがない。
それに、ここは何処なんだろう。
……全然わからない。
さっきの跳躍の時、妙なノイゾが入った。きっとそのせいだ。
見えている銀河は、記録装置に該当するものがない。
まさか、別の銀河団に跳んだなんてことは、ないよね。
あれ? まだ停まらないの? そんな馬鹿な! どこかに流されていく?
あの銀河に入ってしまうのか? ま、待ってくれ、それはいくらなんでも、冗談じゃない。停めろーー。
たすけて〜〜。
彼等は不運にも、とある辺境銀河の、更に辺境にある、小さな太陽系に流れていった。
気が付くと、目の前に知的生物らしい者達がいる。
なぜ知的生物だと分るって? だって、何か喋っている。対話しているように見える。二足歩行形の生物と四足歩行形の生物(?)。それに、この部屋全体を何かが管理しているようだ。
そう、彼等は とっても不運にも 茜に捕まってしまったのだ。
ここは第一ラグランジュ・ポイントにある別荘の一室である。先日 月に落ちて来た(飛んで来たのではなく、明らかに落ちて来た)飛行物体をチビが回収し、調査した。中に生物がいたが、明らかに地球製の生き物ではない。
九種類の生物から構成された組織のようだ。
チビは調査の過程で、この飛行物体の構造を把握している。彼等の脳を調査し言語も理解した。翻訳システムも完備した。これで茜を迎えられる。
報告すると 茜と静香、そして執事長が来た。
「あなた達は何者? 地球を侵略しに来たの?」眼を輝かせている。
翻訳機まで造っている。彼等の文明程度がよく判らない。どうしよう。
「ねえ、返事してよ。じゃないと、焼肉にしちゃうぞ」ニヤリと笑った。
こ、これは、脅迫されているようだ。ヤキニクの意味は分らないが、あまり良い雰囲気ではない。ちゃんと釈明する必要がありそうだ。
「私達は侵略者ではありません。遭難したのです」
明らかに がっかりした様子を見せて、さっきの生物が話しかけてきた。
「なーんだ。つまんない」「で、どこから来たの?」
「さぁ、どこでしょう。ここから かなり離れているのは間違いありませんが、比較対象がないので分りません」
「比較対象って、銀河じゃ分らないの?」
銀河の事を知っているということは、かなり高度な文明を持っている可能性がある。あまり迂闊なことは話せない。
「ねえ、どうして黙っちゃうのよ」
「さては、やっぱり何か企んでるでしょ」
「いえ そんなことはありません。説明をどうしようかと迷っていただけです」
「そうか。銀河じゃなくて、銀河団が違うんじゃない?」
図星だ。銀河団のことまで知っているのか。どうしよう、話してしまおうか。
「あなたたち、九種類の種族で一括りなの?」
「ヒトククリとは、何でしょうか?」
「一つの団体ってこと。皆で相談して何かを決定するの。例えば地球を壊してしまおうか。とか」
何で、そう物騒なほうに考えるのかな。このヒトは。
「まあ、そうですが。チキュウって、そこの惑星のことですか? でも、壊したりしませんよ」
「我々には、知的生物を殺害する権限はありませんから。でも、自衛目的なら別ですが」
「どこかの国が言いそうね。その言い訳」機嫌を損ねたようだ。
「それで、あなた達は これからどうするの」
どうすれば良いのだろう。それこそ こちらが知りたい。
「……」「わかりません」
「何も分らないのです。ここが何処なのかも、何故ここに来たのかも。全く検討がつかないのです」
このままでは、泣き出しそうだ。どうすれば良いのだろう。
「じゃ、私の国に来なさい。歓迎するわ」
話していた人物以外が、驚いたような表情をしている(たぶん)。確かに突拍子もない提案だ。異生物を懐中に入れるなんて発想、普通するだろうか。
まさか、生体実験でも するのつもりなのではないだろうか。
「その顔は、生体実験でもされると思ったでしょう」
この生物は、ヒトの考えが読めるのか?
「ねえ、どうなの。来るの、来ないの」
「い、行きます」
思わず口にした言葉だった。彼等の運命は、これで決まった。
茜は道に迷ったヒトを助けた。くらいにしか思っていないようだが、これは大変な事であった。何せ宇宙人なのだ。どう扱って良いのか全く分らない。
「九種族でしょ、居住環境なんて 多くても九種類しかないじゃない」
「とりあえず、チビに任せましょう。月にでも居住区を造ってね」「チビ。すぐかかって」
『はい。了解しました』
「他の八種族のヒトは元気なの?」
『まだ調査中です。怪我人もいるようなので、処置に時間がかかりそうです』
「あのヒトに居住環境や食べ物なんかについては聞けば良いんじゃない。とりあえず地球に住めるかどうかだけでも確認してよ」
『はい』
「面白いことになりそうだわ」
『……』