複雑・ファジー小説

佐倉 茜・狂想曲 ( No.9 )
日時: 2015/08/29 16:08
名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: Ic8kycTQ)


 宇宙人は九種族の全員が 地球に移住する運びとなった。
 彼等の代表団が茜王国に やって来た時「少し寒いな」とは言っていたが、外が殺風景なことや、重力の問題などで 月よりは地球の方が住み易いとのことだった。
 双方の準備も含め、移動開始は 四十日後に決まった。

 茜は九種族に九つの島を与えた。一種族に一島である。
 それぞれが佐渡島程度の広さを持つ無人島だ。赤道付近にあり、彼等にとって とても住み心地の良い環境になる筈だ。
 こんなモノどこにあったかって。ある訳がない、造ったのに決まっている。
 無い物は造る。それが茜の流儀である。
 それは、三十八日前にさかのぼる。

 宇宙人の視察団を帰した後、茜は大きな机に座って(椅子にではない)何か考えていたが、おもむろに作業を開始した。
 茜王国を中心に配置した世界地図を広げて、チビと対話しながらだった。これが、果して対話と呼べるのかは疑問ではあるが。
「この辺りから赤道上まで繋いで……と」とても他人には見せられない格好で、茜が地図上に落書きを始めた。
『……』チビの不安そうな気配がする。機械なのに。
 茜王国の一番南の島から、黒色のサインペンで 丸印や点をポツポツと描いていく。ひどく適当な間隔だ。赤道のあたりまで描いて、黄色のペンに換え、赤道を挟んで くるりと輪を描いた。
「これで良し!」茜は、作業を完了したようだ。
『え?』チビには、何のことだか判らなかった。
「これくらいの範囲で、赤道付近に大きなのを九個、小さいのは そうね二十個くらいで良いわ……」
『……』何だか、嫌な予感を覚えたチビだった。
「あとは適当に国境が切れないように繋いでちょうだいね」
『あの……、もしかして領土を拡げるのですか』恐る恐る尋ねるチビだった。
「そうよ。宇宙人には ここじゃ寒いようだから仕方ないわ」全く躊躇のない答え。
「緑地の比率は六十パーセントで良いわ」茜は どんどん話を進めていく。
「一箇月以内に住めるようにしてね」
『……はい』チビに拒否権はない。もう決まったことだ。
 溜息をついたような雰囲気を醸し出すチビだった。機械なのに。

 翌日。茜王国の南端の沖合いを皮切りに、ある筈のない海底火山が連鎖的に噴火して、赤道まで繋がった。そして赤道周辺の海底が突然隆起して、大小二十九個の島が誕生した。
 それは、後に『茜王国南部海底火山連続噴火』(茜王国拡張工事ではない)と記録された事象である。念のために記しておくが事件ではない。
 新しく出来た島々は またたく間に整備され、緑豊かな環境になった。
 その影には、チビと執事隊、メイド隊の とっても涙ぐましい努力と献身があった。 

 茜が宇宙人に課した使用条件は「緑地を減らすことは認めない」これだけだ。
 当然だが茜王国の法律は守ってもらう。
 宇宙船からの各種品々の持ち込みも認めた。

「名字が欲しい? 何に使うのそんなもの」宇宙人の要求は意外なもので、さすがの茜も意味を解しかねた。
「そんなものって、地球人は皆さん持っておいでですよね」茜が最初に対話した宇宙人である。翻訳器なしでも話せるようになっていた。
「あなた達の名前じゃ、だめだったわね」茜は そのまま読めば良いだろうにと一瞬思ったが否定した。そうだった。地球人には発音できなかったのである。逆は可能なようだ。
「うーん。何か条件でもある?」
「ナンバーリング。頭に1から9の数字を入れて頂きたいのですが」
 茜は差別が嫌いだ。自分が女王様だということは、考えてもいないようだ。
「数字に何か意味でもあるの」突然、茜が不機嫌な顔になった。
 宇宙人は その顔を見て、誤解のないよう 正確に説明する必要性を強く感じとった。彼も ちゃんと学習しているのだ。これは間違いようの無い、危険信号であった。
「べ、別に階級とかじゃありませんよ。ただの部屋番号です」
「宇宙船では 種族毎に環境調整するための、居住区域を表す番号でした」それを流用したいらしい。

 茜は、宇宙人の苗字を、一条から九条に決めた。
 なかなか 1から9まで連続した苗字など思いつかず、思ったより手間取ったようだ。下の名前は、各人で勝手に決めるようにと指示した。
 それに 茜は忘れていたが、戸籍にも これを記入することになる。
 宇宙人達は 地球の、茜王国の国籍を取得したことになったのである。
 もう、地球人であった。

 あの元宇宙人は「三条太郎」と名乗っている。現在、茜の側近の一員である。