複雑・ファジー小説

Re: 魔獣戦争。【オリキャラ募集予定!】 ( No.10 )
日時: 2015/08/24 23:11
名前: 雪兎 (ID: VIeeob9j)

第八話 謎の救世主

何が起こったのか、分からなかった。


「はっ……、はあっ、はあ……」


薄暗い倉庫の中には、自分の荒い息が、遠く聞こえるだけだった。


———いや、先ほどと違うところが一つあった。良太は恐る恐る目を向ける。


自分を殺して食おうとしていた狼男の死体が、そこには転がっていた。


「う……、え?」良太はこれでもかというくらい目をこすり、眼を細めた。


見間違いでなければ。狼男の死体は、真っ二つになっていた。それこそ、大振りの刃物で切断されたように、きれいに。


「!———っぷ」


吐き気がこみ上げてくる。だが、自分が何とか助かったのだということに気付き、心がすうっと落ち着いていくのがわかった。「俺は……生き残ったのか」


改めて死体を見下ろす。———大丈夫、完全に死んでいる。それなら、もうこんなところにいる必要はない。早く人のいるところに出よう……


そう思い、振り返る。


「………、え?」


目の前に広がったのは、大きな上あごと下あご。そしてそこにずらりと並ぶ、とがった犬歯達で———


ま、まさか、もう一匹。


「ヴォウン!」「……っ!」


怒り狂った狼の唸り声。思わず尻餅をつき、死を覚悟したその時———、


パアァン!パン、パンッ。


「!」


すぐ近くで、三発の銃声が響いた。そして、ずるりと音を立てて狼が倒れこむ。


反射的に、倉庫の入り口を振り返る。そこには、三人の男たちが立っていた。


「……三発も無駄に使うな。未熟者が」「す、すみませんっ!以後気を付けますっ」「ははは。堂島さんは手厳しいなぁ」


…何なんだ?この人たち。緊張感のかけらもないぞ…。


「…それより早く、一般人の保護を」「あ、はい!——君、大丈夫?怪我とかしてないかい?」「え、ええ…大丈夫です」


三人とも黒いスーツを着ており、まだ二十代くらいだと思われる。たぶん、さっき良太が呼んだ警察だろう。話しかけてきたのは、その中でも一番若そうな青年だった。「あ、あの俺——」「うん、もう大丈夫だ。心配ないよ」

そう言ってほほ笑みかけてくれた彼の笑顔に、良太は心底ホッとした。安心感と疲労で、倒れてしまいそうなくらいに。


それから少し、事情聴取を受けた。自分の名前や狼男と出会ってしまったいきさつ、狼男の特徴など。正直くたくただったが、少しだけ話を聞かせてくれたので質問をしてみた。


まず、声をかけてくれた青年の名前は長谷川裕貴(はせがわ ゆうき)。幼さを残す顔立ちで、ぴょんと飛び出したアホ毛が特徴的だった。

無口で身長の高い、一番立場が上だと思われる男性は堂島剛(どうじま つよし)。精悍な顔立ちで、いわゆるイケメン。黒髪のオールバックがとても似合っている。

一番年上っぽい男性は滝(たき)さん。この人だけは名前を教えてくれなかった。どこといって特徴のない見た目だが、へらへらとした笑みを常に浮かべている、なんかよくわからない人だった。


長谷川さんはできる限り良太の質問に答えてくれたが、なぜかこのことは絶対に人には話すなと、何回も何回も念を押してきた。


あまり何回も言うので不審には思ったが、良太は大人しく頷いておいた。「じゃあ、僕はもう帰っても……」


「ああ、うん。面倒かけてごめんな。ええと親御さんには———」「ああ、いいんです。……その、もう、いないんで」

まずいことを言ったと思ったのか、長谷川さんが異常に慌てた。「そ、そうか!なんかごめん……」「えっ。いいですよ別に、気にしてません」

そのやり取りを聞いていた滝さんがクスッと笑った。次に堂島さんが、俺を振り返って一言。「……もししゃべったら、お前もしょっ引くぞ」


ひ、ひいっ!眼光が鋭い、怖っ。「はい、了解しました!」


がちがちに固まった俺を見て、堂島さんはふんと鼻を鳴らし、さっさと倉庫を出て行ってしまった。そして、その後を慌てて追う二人。

「ああ、待ってください先輩!———じゃ気をつけてな、良太君!」「おう坊主。しっかり青春しろよ〜」


バタンッ。ブゥゥゥン……


「い、行っちゃった。」


なんか、もう、色々なことがありすぎて頭が痛い。———大きくため息をつく良太だった。