複雑・ファジー小説
- Re: 神童は幸福を想 引き篭もり少女の行く末 ( No.5 )
- 日時: 2015/08/07 03:13
- 名前: 廃人君 (ID: SsOklNqw)
二話後半 回想2
中学で推薦を受けるのは、運動部くらい。
無難に入った吹奏楽では、団体であまり成果を挙げられなかった。集団で愛理耶の力が発揮できるはずもなく、上に行くことはできずにいた。
だが、個人なら別の話になる。
「天才ピアニスト」「ホルン神童吹奏者」 と数々の名を広め、無名学校の看板となっていた彼女はありとあらゆる進学校の的となっていた。
それは当然のことだろう。彼女一人いれば、偏差値が低かろうが名は売れるのだ。
_当の本人はと言うと、既に進学先は決めているようだった。
彼女の得意なものは多彩だったが、個人的に好むものはコンピューターのプログラムについて。
もっと最先端な技術が作れるはずだと思いたち、情報技術が深く学べる部のある「私立百蘭学園」への入学を希望していた。
私立百蘭学園は、カリスマ溢れる高校であり勉学への意識が非常に高い。もちろん、運動面でも部は全国レベルである。
故に偏差値は馬鹿にならないくらい高いが、愛理耶の場合は視界に入れる必要なはないだろう。
__そして晴れて入学した愛理耶
入学当時、彼女の周りは男女問わず人で溢れた。
同級生なら知らないはずもない彼女はどこでも贔屓され、異性だけでなく同性からも告白される程だった。
だが事あるごとに断る愛理耶。それは日常茶飯事。
興味が無いわけでは無かった。ただ、自分の心を射る人間が現れない。
「愛理耶勿体ないよ?イケメンなのに〜」
「そんな事言われても…顔が良ければいいって問題じゃないから…」
そんな中、性格の良い親友も出来た。名前は「高柳 陽葵」
彼女も男子に人気があり、既に彼氏もいる。
自分とは違い、テニスが好きな運動派の彼女ははきはきとして裏表のなさそうな子だった。
はたから見れば、そっくりな2人だが内面は驚くほどに違っていた。
マニュアル型の愛理耶は必要なこと以外は、左から右へ受け流しなかったことにする。
だが、陽葵は違う。人一倍努力し、人一倍周りが見えるタイプだ。
そのため今までは学校で一番だった自分が、愛理耶と何かしら対比され裏で聞く自分への侮辱と罵りが嫌でも耳に入ってくる。
人の良い人間でも、悪心を持てば周りと何ら変わらない。
陽葵は、愛理耶のいないところでありもしない噂話を流し始める。
「簡単に股を開く淫売女」「教師との交際」など、愛理耶の才は穢さずに裏の自分を広めようとしたのだ。
特定の人間以外は、均等に距離を置く愛理耶の人脈は見事に崩れ去った。
日に日に周りから人がいなくなる愛理耶は異変を感じ、親友であり本人は知る由もないが、皮肉なことに首謀者である陽葵に相談する。
「きっと、愛理耶に憧れすぎて怖くなったんじゃない?」
と、しらを切る陽葵。
最初はもちろん、信頼と少しの願望でそうであってほしいと信じた。
だが二週間後、陽葵は絶対に犯してはいけないことに踏み切る。
いつまで経っても大きく弱る気配がないことに腹を立たせ、愛理耶の持ち歩いているノートパソコンのデータを抹殺しようと考えたのだ。
専門的な知識がなくとも、その程度のことは出来るだろう。
手洗いに行った瞬間を狙い、愛理耶のバックの中を漁ったその時__
「陽葵…?何やって…」
ハンカチを忘れたと戻ってきた愛理耶にとっさに振り返る。
愛理耶の顔は信じられないという表情をしていた。
「あっはは、陽葵あんた馬鹿じゃないの。作戦失敗〜」
「だっせぇスパイ様」
知っていた周りの見ていた人間は、陽葵を嘲笑い始めた。
「ひ、陽葵…?どういうこと?」
周囲の反応に、状況の分かり始めた愛理耶は笑っているのか悲しんでいるのか分からない顔をし始める。
(嘘だ。そんなはずない…だって陽葵は…)
「陽葵って呼ぶなッ!!」
叫び散らした陽葵の声に、周囲に沈黙が流れ始めた。それと同時に愛理耶の表情の体は硬直した。
「私は…私はあんたが大っ嫌いだったんだよ!!あんたのそのいらない才能のせいで私の人生はめちゃくちゃになった!全部!!全部!」
__そう言った陽葵の言葉は悲しみに満ちていたはずなのに、何故か顔が笑って見えたのはきっと“僕"だけじゃない