複雑・ファジー小説

Re: 月の女神と夜想曲 ( No.4 )
日時: 2015/08/13 22:45
名前: 久遠 ◆rGcG0.UA8k (ID: .bb/xHHq)

日が落ちた空を輝く無数の星達が大地を照らす時間。
私——柏木雪は夜道を一人歩いていた。

すっかり遅くなっちゃった……早く帰らないと。
何故この様な遅い時間に出歩いているのかといえば、理由は実に簡単で。

今日は朝からバイト先で働いていたのだが、定時で帰ろうとした私に先輩が仕事を押し付けて帰ってしまったのだ。
そのせいでこんな時間まで出歩いている訳だけど……。

「断れない私も悪いんだよね……」

人に悪意を向けられるのが怖くてつい流されてしまうのは、私の悪い癖だった。
そんな自分が少し嫌になって、何となく空を見上げる。

見上げた先には幾つもの星達と一際輝きが美しい満月が優しく大地を照らしていた。

「今夜は満月だったんだ……」

綺麗、という有りきたりな褒め言葉しか出て来ないけど、この月を見ていると気分が落ち着いてくる気がしていた。

どうしてこんなに見ているだけで気分が落ち着くんだろう?
疑問が頭を過ぎったが、それは全身に降り注ぐ数多の星達によって打ち消された。

「えっ」

見上げた空からとめどなく降り注ぐ光達。それをただ動けないまま見つめる私。
突然な出来事に驚きで言葉が出て来ず、どう行動するべきかも分からなくなる。

流れ星? 違う、そんな綺麗なだけのものじゃなくて——
当てはまる表現を考えるうちにも全身に浴びせるように降り注ぐ光は一層強まって。

やがて一つの大きな柱のような光となる。
満月へと繋がるように伸びるその光は私の体を飲み込んで——眩しさに目を閉じるとふわりと、体が宙に浮く感覚がした。

浮いてる……のっ?
眩い光に阻まれて目を開けることは叶わない、が自分の体がどんどん地面から離れているのだけは何となく分かった。

「っ……」

良い知れない恐怖が体を包んで思わず泣きそうになる。
だけどそれは頭に直接語りかけてくるかのような声によってかき消された。





————朔夜姫






何度も何度も繰り返される不思議な言葉。
その言葉に私はなんの思い入れもないはずなのに、何故か胸がぎゅっと締め付けられるように苦しくなって。

そこで私の意識は途切れた。