複雑・ファジー小説
- Re: 救えない愛の壊し方。 ( No.14 )
- 日時: 2015/09/12 22:39
- 名前: 美華 (ID: pkc9E6uP)
「兄さーん!いるんだろ?」
部屋のドアの外から、隼人の声が聞こえた。
「お昼ご飯まだだろ?持って来たから部屋入るよー?」
ドアには鍵が掛かっている。開くはずがない。
私の心臓は今にも破裂しそうな勢いでドクッドクッと脈打っていた。
「さっきひより来てた?…って、な訳ないか。ひよりの声幻聴で聞こえるとかやばいよな、俺」
鍵の掛かっているはずのドアは、なぜか開いてしまって、その隙間から隼人の顔が見えた。
「……え?ひより…?兄さん…?」
「隼人…!」
私と隼人の兄が生々しい事をしているであろう現場に直面し、隼人は混乱しているようだった。
隼人の兄は、俺のオモチャになるだのどうだの言ってきたが、首筋を噛んでみたり、胸を触ってみたりするだけで、特に一線を越えるようなことはしなかった。
初めてだったらしい。きっと、怖かったんだ、この人は。
「お前…俺のひよりに何してんだよ」
隼人は、私に馬乗りになる隼人の兄に近づいてきたかと思うと、いきなり拳を握りしめ、隼人の兄の顔を思いっきり打った。
隼人の兄の身体は余程衝撃を受けたのか、ぐらりと揺れてベッドから落ちてしまった。
その隙に、私は起き上がり、ワンピースを上から被った。
「…何で、隼人にそんな事言われなきゃいけねぇんだよ。ひよりちゃんはもうお前のものじゃないだろうが。もう、俺のオモチャなんだよ」
「はぁ?誰がそんな事言った?ひよりは俺のものだからな。これまでも、これからも、ずっとだ」
隼人の目は、怒りに満ちたようだった。隼人の兄の事をじっと睨んでいる。
「俺たち、兄弟なのに合わないな。一卵性の双子なのによ。俺、お前が昔から気にくわねぇんだよ!」
隼人の兄は、そう言って隼人に殴りかかった。が、隼人はそれを片手で受け止め、「じゃあ、関わってくんなよ」と鋭い目つきで言い放ち、男の急所を思いっきり蹴った。
「…ひより。行こう」
私はこくりと頷いて、隼人の差し出した手を取り、部屋を出た。あの頃の温もりが、また帰ってきたみたいだ。
- Re: 救えない愛の壊し方。 ( No.15 )
- 日時: 2015/09/25 17:05
- 名前: 美華 (ID: uFFylp.1)
隼人に手を引かれ、バス停まで来た。
それまでずっと、二人とも罰ゲームみたいに押し黙って歩いてきた。
隼人がバスの時間表を見て、私に短く伝える。
「一時に帰りのバスあるから、それで帰って」
太陽に照らされて隼人の顔は見えなかった。
「…それだけ?」
自分で紡いだ言葉に驚いた。
知らず知らず、そんな言葉が口から漏れていた。
隼人が振り向き、決まりの悪そうな顔が見える。
その顔はまるで、”何でそんな事聞くんだ”って言っているみたいだ。
でもーーーーーーーー私は、聞きたかった。
ずっとずっと、この一週間。
「私の事、まだ想ってくれてるんだよね…?」
隼人の顔色を伺うように尋ねた。
こんな事いったら、重い子だと思われるのかな。
最後なのに、こんなの嫌だな。
なんて思うけど、すでに紡いでしまった言葉を回収することなんて出来ない。
私の声を覚えてくれていた。幻聴って勘違いするくらい、私の事を忘れられないんじゃないの?
そんなの、ただの私の妄想に過ぎない。でも、そうであって欲しいと強く願った。
突然の別れ。隼人はそんなことする人じゃない。
四年も一緒に居たんだ。そんなの、わかってる。わかってる、はずなのに……。
隼人の顔が、みるみるうちに歪んでいくのを見て、私は目を瞑った。
- Re: 救えない愛の壊し方。 ( No.16 )
- 日時: 2015/10/03 20:55
- 名前: 美華 (ID: zKu0533M)
「……っごめんね。こんな事聞いて」
隼人とやっと会えて話せたのに、嫌な空気にはなりたくなかった私は、笑って誤魔化した。
今のは忘れてって付け足して。
「いや…ひよりの言うとおりだよ」
隼人は私の目を見てこう言った。
「え……?」
「俺、あれからずっとひよりのことばっか考えてた」
顔を赤らめて言う隼人を見て、昔に戻った気分だった。
昔といっても、たった一週間前のことのはずなのに。
あぁ、この一週間、長かったなぁ、とつくづく思う。
「じゃあ……」
「それはできないんだ」
私の言葉を塞ぐように、隼人は言った。
何で……隼人は、私の事、まだ愛してくれてるんだよね?
何で、何でできないの。
私は隼人の目をじっと見つめた。
「そういえばさ、兄さんに何されたの?」
話を流すように隼人はあの件を持ち出した。
「身体見られて…首筋噛まれたり、胸触られたりしたけど……特に一線を越えるようなことはしなかったよ?怯えてた。よくわかんないけど」
そう言い終わってから隼人を見ると、険しい顔をして私へ近づいてきた。
「ずるい。ひよりは俺のものなのに」
「えっ……隼人」