複雑・ファジー小説

Re: 救えない愛の壊し方。 ( No.6 )
日時: 2015/09/01 16:23
名前: 美華 (ID: jo2UR50i)

あれから一週間が経った。
毎日のメールや電話はあの日以来、一度も来なかった。
ああ、私達って終わったんだな、と思う。
でも、朝起きたら隼人からメールが来ないかなとか、電話掛かってこないかななんて考えてしまうのだ。
だから今日もこうして掛かってこない電話を、来るはずもないメールを待っているのだった。
私は、隼人のことを好きなのではない。これは、はっきり言えることだ。
顔だってタイプじゃないし、第一何となく付き合い始めた人だ。
でも、隣にいないのは寂しい。
ケータイを開くと、受信履歴には毎日隼人の名前がある。
隼人と付き合ってから四年間の履歴。
それはちょうど隼人と別れたあの日までで止まってしまっている。
メールには「愛してる」「大好き」で溢れていた。
ついこの前までは、私だけに向けられた愛の言葉。
今、隼人は何処で何をしてるんだろう。
あの時、私はどうしたらよかったんだろう。
泣きついて止めればよかったんだろうか。
私は隼人を愛してると言えばよかったんだろうか。
でも、嘘はつけない。
だって隼人は、私の大切な人だから。
それだけは、はっきりと言えることだった。
好きとか、愛してるとかとは違うけど、隼人は私にとってとても大切な人だ。
いつも私を支えてくれた。
私が落ち込んだ時は笑わせてくれたり、相談に乗ってくれたり、そばで居てくれたり…。
当たり前のことだけど、それは私の生きる力となっていた。
ああ、隼人に会いたい。
そんなこと、私は言える立場ではないけれど。
でも…、もう一度聞きたい。
隼人の声、笑い声、甘えた声も、落ち込んだ声も、全て……。
愛おしいほどに眩しい、隼人に会いたい。
心はぼろぼろだし、誰かに人差し指で押されただけですぐに潰れてしまいそうだ。
砂の城のような感じだ。
美しい物は、一時ものですぐに壊れてしまう、物凄く脆いもの。
人はよく、無くしてから気づくものがあるという。
私も今、隼人の重み確かめている。
隣の重みが消えたこと。
それは、どんどん私を脆くした。
欲張りかも知れないけれど、もう一度会いたい。そして、隼人に「愛してる」と言って欲しい。
そんなことを考えて、今日も1日が、長い1日が始まるのだった。

Re: 救えない愛の壊し方。 ( No.7 )
日時: 2015/09/02 17:22
名前: 美華 (ID: hamvuQpq)


少しおしゃれな、大人っぽい黒いワンピースを着て、ナチュラルメイクをして、髪を巻いて…。
鏡を見ると、いつもの自分がそこにいるものだから、何だか不思議だと思った。
今日は大学も休みだ。
ぼーっとしておくだけじゃ勿体ないと思って、私は部屋を出た。
大学は地元と離れていたから、私は親を離れて一人暮らしをしている。
ボロいアパートで家賃は3万円。
この辺で、大学に一番近くて安いのを選んだのだ。
私は、歩き出した。当ては無いけど、私の行き着く場所は決まっている。
私はきっと、吸い込まれるようにそこへ向かっていた。
いつもと同じ時間のバスに乗り、いつもと同じ席に座る。
窓から見る景色はいつもより何処か寂しく、色がない気がした。

「あっ、お嬢さん。久しぶりだねえ。見ないうちにこんなに大きくなって」

バスを降りる時、いつものバスの運転手さんが私に声をかけてくれた。
運転手さんにしては珍しい女の人で、40代くらいだろうか。
私はもう成人式を済ませて大人なのに、ちっとも大きくなんてなっていないのに。
なんて内心思いながらも、「そうでしょ」と言って笑ってみた。
ああ、懐かしい匂い…。
冷たい風が頬を赤く染めるとともに、昔の記憶が蘇ったようだった。
秋の服で来てしまったからか、寒くて仕方がない。
ここは標高が高いのだ。
だから、下は涼しいくらいなのに、ここは寒いになってしまう。
私は手で二の腕辺りを摩りながら歩いた。
辺りは木や草ばかりで、のどかだなぁ、とつい言ってしまいそうな雰囲気だ。
見渡す限り、家はなく、誰もいないみたいに見える。
だけど、大きな木で囲まれた中に、一つだけアパートがある。
それも、綺麗なアパートが。
私は少し歩いたところに見えた小道を右へと歩いた。
ああ、ついに来てしまった。
私はここに来てはいけないのに。
ごめんね、隼人。でも、私…隼人に会いたくて仕方がなかったの。許して。
そう、私が行き着くところはいつもそう。隼人のところだ。
私の居場所はここしかない。私の居場所は隼人しかいないの。
私は、震える手でインターホンを押した。

Re: 救えない愛の壊し方。 ( No.8 )
日時: 2015/09/07 18:03
名前: 美華 (ID: sxkeSnaJ)

≪注意≫

これからグロ・R表現が入ります。
苦手だという方はすぐに戻ってください。

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『ピーンポーン』

静かな場所だからか、この音がやたらと大きく響いたような気がした。
中からどたばたとぶっきらぼうに階段を降りてきて、こっちへ向かってくる足音が聞こえた。
がちゃりと鍵の開く音がして、扉が開く。
そこには、見たこともない隼人の姿があった。
ぼさぼさで寝癖をそのままにしたような髪。隈の出来た目に、煙草の酷い臭い。
でも、顔は隼人だった。
隼人は、こちらを見て微笑を浮かべた。
怒ってるのかな…。私が、ここに来てしまったから。
やっぱり、引き返したほうがいい気がした。
もう、隼人に会ってしまったけど、ごめんなさいと言って走れば大丈夫だ。

「あの……ごめんなさい。忘れてください」

「ちょっと待てよ」

私が素早く謝って逃げるように立ち去ろうとして後ろを向くと、手首を掴まれて無理矢理家の中へ引っ張られた。



Re: 救えない愛の壊し方。 ( No.9 )
日時: 2015/09/07 20:29
名前: 美華 (ID: GbYMs.3e)

「痛い!離してよ!」

隼人は黙って私を奥へ、奥へと引っ張った。
そして突き当たりの部屋を開けたかと思うと、ベッドの上へ押し倒された。

「…隼人?」

鋭く光る目はまるで猛獣のようで。
一目見て、これは隼人じゃないと確信した。
私の髪を撫でるように触ったかと思うと、急に前髪を引っ張り上げるようにしたので、悲鳴が漏れる。

「へぇ…これが隼人のオモチャか」

「あ、貴方誰なの!」

驚いた私の目には、涙が溜まっていた。
隼人の事を知ってる人?でも、こんな人見たことが無い。
それにーーーーー目の前にいるのは、隼人の顔をした人なのだから。
全く同じ。顔も、身長も、声も、体つきも。

「それにしても、俺の弟と区別がつかないなんて。ひよりちゃんだっけ?お馬鹿さんだね」

「ちょっと!離してください!」

「離す訳ないじゃん。今度は俺のオモチャになってくれんだろ?」

「…!」

すると、隼人の兄と名乗る人物は私のワンピースを勢いよく捲し上げた。

「意外と可愛くて良かった。体型もまあまあじゃん」

「やめてください!」

私は隼人の兄の鳩尾を思いっきり殴った。
「うっ」と一瞬力が怯む。
だけど、私の考えは甘かった。その隙に逃げられれ訳ないのだ。
すぐに、私に覆い被さってきて、首筋を甘噛みした。
必死に抵抗するも、明らかに体型も身長も向こうの方が勝っている。
私は、何もかも諦めて、身体の力を抜いた。
だって私は、もう隼人のものじゃないんだ。
誰のものでもないんだ。