複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.2 )
- 日時: 2015/08/14 00:38
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: .HkLA/wn)
それは、ちょっとした出来心だった———。
「……退屈」
夏休みほど退屈極まりない時間はこの世にない、と俺は思った。
バスケ部だったがまともに練習に参加したことは数回しかないし、当然宿題なんかまじめにやるわけがない。
友達誘って遊びに行くにしても、空は部活だし、椿はどうせ勉強してるだろうし、時雨だってきっと……。
「あー、退屈」
天から冒険のきっかけみたいなのが降ってこない限り、この退屈は解消されない気がする。
「……」
俺はふと思い出した。胡散臭い名前の、白い箱みたいな建物を。
思い立ったが吉日(?)って言うし、早速メッセージを発信。
『今から近所の研究所に侵入しようと思うんだけど、どう?』
———————
「……椿、本当にちゃんと俺のメッセージ読んだ?」
「読みましたが?」
そう言った椿はおしゃれなブラウスにぞろぞろのスカート。
まあいかにも「育ちがいいです」って感じだけど。
「そんな格好でどうやってフェンス越えるんだよ……?」
「私はそんな犯罪めいたことはしません!」
「じゃあどうやって侵入するつもりで……」
「まあまあ、あたしが侵入して中から何とかすればいいんじゃない?」
割って入ったのは時雨。
小学生みたいな見た目で油断してしまうが、あの膨らんだポケットには絶対怪しいイタズラグッズが入っていると俺は踏んでいる。
でもまあ確かに時雨はともかく、空は部活次第だが、椿が侵入を了承すると思ってはいなかった。
と言うか親とか先生に報告するかもって思ったぐらいだ。
どうせ今日も、普段から問題行動が多い俺の監視のために来たんだろうな……。
「……にしても、あいつ遅ぇな」
空は何事にも一生懸命で、常に不謹慎だと後ろ指指される俺とは根本的に正反対。でもなんだかんだ仲良くやっている。
『行くけど、遅れる』なんて中途半端に返してきたけど、本当に行く気あるのか、あいつ?
スマホを出して『先に出発する』と打って送信しようとしたら、道の向こうに少し乱れた黒髪が現れた。
———————
とりあえず軽く空をシメたところで、
「それじゃあさっそく侵入しよう。この柵をのぼってさ」
「いや、そもそもなんで侵入なんて・・・。おい、人の話を聞け」
やっぱりとがめられた。けど、無視。
時雨なんて昔からサルみたいだから、ひょいひょいひょいっと登っていく。
俺もよじ登って、フェンスの向こう側に脚をかけたところで振り返った。
当たり前だが、椿が苦戦している。
……まあ、手伝ってやるか。
「おい、椿———」
少し上体を倒して、手を伸ばそうとした。
ただ残念なことに、長いことよじ登ることをしていなかったからか、俺をバランス感覚が少し鈍っていたらしい。
つまり、俺はバランスを崩した。
「うわっ……」
ひっくり返ったとき、太陽の光か何かがカッと照った。
「まぶし……ッ」
そのままやわらかい土に着地、土手のようなところをゴロゴロと2,3m転がった。
体についた草を払って立ち上がったとき、俺は目を疑った。
「えっ……と?」
フェンスも、夏の日差しも、そしてあの3人も、そこから姿を消していた。