複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.6 )
日時: 2015/08/19 17:07
名前: 凜太郎 (ID: kct9F1dw)

 目の前に天使がいたから、てっきり僕は死んだのかと思ったけど、なんとか生きていた。
 なぜなら少女は人間だったから。
 僕はそんなアホなことを考えながら、少女が持ってきたスープを啜った。

「でもホント、良かったです。早く目が覚めて・・・」

 そう言って照れたようにはにかむ少女の顔を見ていると、自然と心が安らいだ。
 綺麗な水色の髪を肩で揃え、赤い目をしたその少女は、言葉にできないくらいに可愛らしい。
 しかも、このスープもすごく美味しいし、将来きっと素敵なお嫁さんになるだろう。

「ところで、君の名前は?」
「あ、すいません。自己紹介が遅れて・・・。私はラキ・サルガーナ。この家で父と暮らしています。父はご存じですか?」
「いや、知らないけど・・・」
「そうなんですか?苗字を聞けばみなさん分かるのですが・・・白髪って珍しいですし、遠くの国の人ですか?」
「ごめん。記憶がないんだ」
「え?」

 彼女は僕の言葉に目を見開いた。
 まぁ、記憶がないって言って驚かない人はいないわな。

「それって、どれくらい覚えてないんですか?」
「なんていうか、今まで生きてきた日常とかはすっぽり抜けてる感じ。でも、今まで学んだ知識とか、自分の好き嫌い。あと、ギリギリ自分の名前が言えるかどうか」
「ふーん・・・」

 言ったことは全て事実だ。
 それこそ、プロフィールに書けそうなことは基本言える。
 食べ物の好き嫌いだとか、誕生日だとか。
 でも、その理由を聞かれると答えられない。
 なんでそれが嫌いなのかとか、なんでそれが得意なのか。
 答えられないのだ。

「じゃあ、あなたの名前って?」
「えっと、ソ・・・ラ・・・」
「ソラ、君?」
「うん」
「じゃあ、ソラ君。今日からよろしくお願いします」
「え?う、うん・・・。ていうかここで今日から暮らすのか・・・」
「家の場所、覚えてないと思ったのですが?だから記憶を取り戻すまでの間だけここに住むのかと・・・」
「あ、そっか」

 なんていうか、記憶失ったせいか頭が緩んだ気もする。
 僕は笑いながら頭を掻いた。
 彼女はクスッと笑いながら、立ち上がった。

「じゃあ私はちょっと用事あるので・・・一人で大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。いってらっしゃい」
「いってきます」

 そう言った瞬間、どこからか爆音が聴こえた。
 僕はつい身構えた。

「あ、大丈夫ですよ。戦地はここから遠いので」
「せ、戦地!?」

 当たり前のように発せられた言葉に、僕は自分の耳を疑った。
 彼女は、不思議そうな顔をして、言った。

「知らないんですか?この国、戦争中なんですよ?」