複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.29 )
日時: 2015/10/31 01:27
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)

「……と……んと……でんと……」

誰かが俺を呼んでいる。

「伝斗起きろ 朝食食うぞ」
「んー、何で朝なのに人がいるんだ……?」
「寝ぼけるな せっかく偉大なるリーダーが起こしてやってるのに」

偉大なる、リーダー……。
ン?

「ちょっと待てたしか昨日ゴフッ」
「いだっ」

さて、昨晩(今朝?)の出来事を思い出して跳ね起きた俺はそのままサラマンダーの額に衝突した。
非常に痛い。

「ここは? 俺木の上で寝てなかったっけ?」
「ここはアジトのうちの一つだ 朝食食うぞ」
「えっ。誰かが運んだってこと?」
「ああ、運んでもらった 朝食食うぞ」
「あと昨晩のあれもきちんと説明しろよ」
「あとでな 朝食食うぞ」
「サラマンダー、お前寝癖なおさない派?」
「いい加減にしろ 朝食食うぞ」
「待て これだけ思い出した」

早歩きだったサラマンダーが足を止めて振り向く。俺は大きく深呼吸した。
長い沈黙。

「……朝食食べて、超ショック」
「……………」

先ほどより長い沈黙。

「……朝食食うぞ」
「いや、本当は言いたいことがあったけど途中で忘れたんだって」
「朝食食うぞ」
「もう一度言わせて……」

サラマンダーは恐ろしい目つきでこちらを睨みつけた。

「朝食食うぞ……俺は腹が減った……(重低音)」
「はい……」

俺は黙って小さくなりながら彼の後を歩いた。

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「「「「いただきまーす!」」」」

大き目の切り株の周りを囲んで座る。
俺、右にサラマンダー、正面にシルフ、そして左側に威圧感ハンパない巨人が座る。

「……どなたでしょう」
「俺の部下だ」
「……マジで?」

サラマンダーってこんな強そうなやつのリーダーなの? 上司なの? あいつ中身お子ちゃまだぞ?
しかもこの巨人が強そうに見えるのは巨体のせいだけではない。
汚れた眼帯、擦り切れた包帯。よく見ると足が作り物、つまり義足だ。
この、年季が入った傷跡がさらに熟練の戦人のような雰囲気を出している。

「はじめまして、ノームです」
「ああ、どうも杜来伝斗です」
「二人とも早く食べよー」

シルフが木の棒で皿をたたく。
サラマンダーに「行儀が悪い」と木の棒を没収された。

「俺らはほうっておいて食べていていい」
「わかった、いただきまーす。
今日はご馳走だね」

さて、シルフはご馳走といっているが、魚が一人半分ずつ、お湯が少し、
これは何の穀物?って感じなご飯もどきが少し。
なんか果物っぽい木の実が手のひらサイズで一つずつ。
そしてシルフが頬張っている何かの佃煮。

「サラマンダーってこれで足りるわけ?」
「足りないと思うときりがないからな ちなみに今日は贅沢なほうだ」

ってことは足りないのか。
まあ、でも、確かに食料自体が足りないのかもしれない。
なんせ昨晩のアレがここらじゃ日常らしいし。
ノームとサラマンダーも食べ始めたので、自分も佃煮を手に取る。

「箸は?」
「手で食べろ」

なぜ俺とシルフは箸がないんだ!
サラマンダーとノーム箸使ってるじゃん! シルフは顔つっこんでるけど。

「まだ用意していないだけだ それとも俺が使った箸でもいいなら……」
「わかった! 今日は手で何とかするから! 何とかするから!」

誰が貴様の口をつけた箸使うか!
べたべたになるのを承知で佃煮をつまむ。
細長くて、くたっとした何か。野菜ではなさそう、魚の臓器とか?

「これって何の佃煮?」
「イモムシ。僕が捕ったんだよ!」
「……」

俺は佃煮をそっと切り株の上に戻す。
サラマンダーにあげよう。アイツ足りなさそうだから。
けして俺が食べたくないわけじゃない、ということにしよう。
水っぽいご飯(?)とすっぱい木の実、お湯を飲み、

「お兄ちゃん、この魚僕が捕ったんだよ!」
「いつものことだろ」

シルフが捕ったという魚を食べ終えて、手を合わせてから席を立つ。

「伝斗、佃煮は」
「けして俺が食べたくないというわけではない」
「食べたくないんだな シルフとノームで分けろ」
「やったぁ」

佃煮事件もあっさり解決。なら最初から「食べれない」って言えばよかった。

「お兄ちゃん今日はどこにいるの?」
「この辺で伝斗といる。お前は今日は国王軍のほうに行くのか 気をつけろよ」
「私も作業場にいるので何かあったら呼んでください」
「ノーム、何か作るの? 僕、見たかったなぁ」

俺抜きでどんどん会話が進んでいく。

「伝斗、お前は今日俺と訓練な 人数の都合上お前が戦えないと困る」
「ちょっと」
「私も手伝いましょうか?」
「ノームはいい あと今日は畑の作業をしたほうがいい、昨日の大雨のこともあるしな」

一つだけわかった。今の俺に発言権はないに等しい。

「伝斗、もたもたするな 薙刀を持て、特訓だ!」
「……」

げっそりする俺に対して、サラマンダーが妙に生き生きして見えた。