複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.31 )
日時: 2015/11/03 15:03
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)


「ぜんぜん変わってない。昨日あれだけ激しい戦いしたのに」

シルフは町を見下ろして、驚く、というより感嘆した。
こうも力の差を見せつけられると、やはり今のままでは自分たちは破滅してしまうのではないかという気がしてくる。
もっとも、そんなことサラマンダーの前で言えないが。
しばらく空中を漂っていると、市場が見えてきた。
ちょうど、花の形をしたあめ細工を並べている店があった。

「もーらいっ」

シルフは地面に降り、あたりを見渡してからそっと一本とった。
サラマンダーは甘いものが好きだ。顔に合わず、子供舌。
そういえば、今は伝斗がいる。彼のためにもう一本、そして自分の分も取ろうとしたときに店の主人がこちらに気づいた。

「あっ、お前また……!」
「ワッ! ヤバ!」

あわてて飛び立つと、ひょうしに飴が一つ落ちた。

「あっ……」

その刹那、飴の花が砕け散った。
市場の中に銃を持っている人がいる。
それに気づいたのはシルフの羽が打ち抜かれてからだった。
舞い散る羽。もう飴を拾っている場合ではない。
必死に羽をばたつかせて飛ぶ。やっとのことで市場を離れ、さて、お兄ちゃんのところへ、と方向を変えようとしたとき、次なる敵が現れた。
城壁の向こう、昨日の少年。

「きょ、きお…敵だ! 最悪!」

とっさに叫んだはいいものの、体が追いつかない。
そのまま綺麗に蹴りを決められ、抵抗することもできず地面に墜落した。
高さ的にはそこまで高くないし、力を受け流すように落ちたから大きな怪我ではない。
ただ、右の翼。根元から痛い。たぶんしばらく飛べないだろうな。
身動き一つとれずにそんなことを考えていると、少年は駆け寄ってきてさらに首に回し蹴りを加えた。

「いたたた…待って…」

目を開けたとき、一瞬だけ見えた。
白い、白い、白い髪。白い翼。見下ろした深く、深く澄んだ瞳。
お母……。

「革命軍が、ここに何の用だ?」

低い声で引き戻される。
そうだ、お母さんはいない。お母さんがいる分けないよね。
そうは思っても、動揺は隠せない。
声が震えて、ひっくり返った。

「偵察に来た…だけだよ……」

隠し持っている飴を握り締める。さっきの着地でバキバキに割れてしまったらしい。

「だから、殺さないで……」
「それが殺さない理由になると思っているのか? 戦争中なんだろう?」
「お願い…だから……命だけは……」

わかってる。そんな甘い考えでいられないことはわかっているんだ。
でも、僕はここで死にたくない。

「もうどうでもいいや」
“もうどうでもいいよ、今更”

父さんの姿が重なった。見下した目。冷たい目。
そうだ、僕の居場所なんてなかった。僕はいらない子だった。
突如現れた期待の新人兵。お前なんかに僕の何がわかる。
ようやくできた僕の居場所。お兄ちゃんの隣。
死ぬなんて怖くない。だってお兄ちゃんがいてくれたから。僕は必要とされて生きたはず。
振り下ろされる刃を受け入れ……。

「危ないッ!」

バギィッ、と音を立てそうなほど豪快な殴り。
痛そー! こう言うとすごく他人事だけど。

「ノーム! 畑仕事は?」
「さっき一段楽したので、休憩がてらあなたの様子を見に行ってみたらなんだか殺されかけていたから」
「ホントだよ! 来てくれて助かったよ〜。あの子死んじゃったのかな?」

確か昨晩、伝斗が親しそうにしていた少年だ。
それだったら首だけでも持ち帰ってあげようかな。お兄ちゃんみたいに。

「それは分かりませんが、ひとまずアジトに行きましょう。怪我の手当てをしなければ」
「はーい」

素直に応じて歩き出した。
ノームの目が語っていた。安易に殺してはならないと。
僕にはまだ分からないけれど、大人になったら分かるのだろうか。

「ノーム」
「なんでしょう?」
「僕のお母さんはさ……殺しちゃったのかな」

彼は何も言わず、ぽんぽんと頭を撫でた。





大丈夫、僕の居場所はここにある。