複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.33 )
- 日時: 2015/11/14 01:27
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)
「体を開け!
前に一歩……違う! 体を前に向けるんじゃなくて横!
顔は前だ! 体だけ横に向けろ! 脚は前だ! 違う、後ろの足は横向きでいい!
だから、違うって! 腰を開け! 体は横向きだ!
キツイ!? そんなことは知らん! 体を開け、もう……下手だなお前!」
サラマンダーの怒声を全身に浴びながら、薙刀を構える俺。
薙刀というのは柄が長くて、体を横向きにして構えるらしい。
まあ、インターネットが使えるなら画像検索したほうが早いだろう。
俺はこれを構えるのに精一杯だから説明まで手が回らないのだ。
「ぼーっとするな! 前に出るときに跳ねている! 基本的な動作だけは身に着けろ!」
「……普通に刀じゃダメかな」
「刀はあいにく備品がない 本当はマシンガンを持たせようと思ったんだが、お前がなくしただろう」
「いやあれは……ごめん」
投げたのは俺じゃないからね! という心の声を封じる。
これ以上練習をハードにされたら……怖え。
「そういうわけだから、薙刀の基礎だけは身につけろ
本番だけは本能で戦え 基礎にとらわれなくていい」
「それって基礎の意味なくない?」
とても重要な指摘だと思ったのだが、サラマンダーはさらっと無視。
こいつ、自分に都合のいいところしか聞いてねえ。
「とにかく早く基礎だけ身につけろ 俺は午後から用事がある
……ところでお前、字は読めるか?」
「日本語と簡単な英語ならね、話せる言語はたいてい読めるよ」
「構わん」
あれ、そういえばここって日本語なんだ。今更だけど。
まあそういうことは普通つっこんじゃいけないのがお約束だよね。
「素振り50回ずつ、上下に振るやつと、斜めに振り下ろすヤツな。
それ終わったら午後の仕事に行くから」
「……ご飯は?」
「一日二食が基本、というか食べれればいいほうだ」
「……マジですか」
まあ別に俺食が細いからいいけど。なるほど、戦争の影響、ね。
休憩しようと薙刀を置いたとき、向こうのほうからノームが歩いてくるのが見えた。
あ、シルフもいた。小さくて見えなかった。
「リーダー、シルフがあちらで怪我をしました」
「ねー聞いてよ! あのさあのさ! あの人女の子蹴るんだよ! 酷くない!!?」
……怪我以外は全然元気だな。負傷者とは思えん。
いつもあの調子で疲れないのかな?
「伝斗、手当てできそうか?」
「俺? まあできなくはない、って言うかむしろ得意だよ よく怪我してたから」
「じゃあお前でいい。なんにせよこいつはうるさ……こほん、お前の練習にもなるしな」
言ってしまったなら潔く最後まで言えよ。
確かに、うるさいといえばうるさい。
でも思い返せば、時雨もこんな感じだったし、椿も(小言が多いという意味で)うるさいと思うことはあった。
空は昔から静かなんだよな。やられてもあんまり言い返してるイメージとかないし。
“空! 大丈夫!?”
突っ立った空、駆け寄る時雨と椿。俺は見ているだけ、近づく資格はない。
“伝斗、何でこんなこと……”
誰だよ、もう。嫌いだ。嫌いだ嫌いだ、友達なんて———俺なんて。
……ちょっと待て、何思い出してんだ。
仕方ないだろ、あれは不可抗力というか、なんと言うか。俺はそういう人間で、って何言い訳してるんだ今更!
「……謝ってないんだよなー」
「伝斗! 早く怪我のヤツ手当てしてよ! 午後からまた連れ戻すっておにいちゃんが言ってたよ! え、どこ行ったか? 知らないよ!」
ふと気がつくとシルフがふくれっつらで服の裾をくわえてた。子供かよ。子供だろうけど。
そしてサラマンダーはいずこへ。
……人使いが荒い。何するか聞いてねえし、午後の仕事。
文字って言ったよなー。魔物の集落多いって聞いたし、識字率が低いのかな。
無言で手当てするのもなんだから、シルフに何か話しかけようと、話題を探す。
「……白い翼って、なんかカッコいいよな。」
「そお? 僕白嫌いだよ 醤油がはねたら困るじゃん」
鳥の姿して醤油がはねたときのことを気にするのか。
それは大変だ。洗濯できないもんな。でもそういう問題じゃなくね?
「それにさ、白はお母さんの色だから。だから……嫌い」
「……反抗期?」
「違うよ! とにかく嫌いったら嫌いなの! ほら、手を動かさずに口を動かして!」
……ン? 今動かすべきは手だと思うが?
まあ、つっこむとめんどくさいと判断してスルー。
俺この世界来てからつっこみスキルとスルースキルに磨きがかかったと思う。
結局はシルフに指示されながら何とか撒き終えると、シルフは立ち上がり、
「ありがと! お礼に……あ! アメ落としてきちゃった!!」
話によると市場でアメを取ってきたのだが市場を出るときと怪我をしたときに落としたらしい。
それもその無礼な人間のせいで粉々になったとか何とか。
……ところでアメを盗むのは犯罪だと思うが、これはつっこむべきだろうか?
「お花だったんだよ! お花、綺麗なやつ!」
「ハイハイ、じゃあ俺サラマンダーのところ行くわ お前、じっとしてろよ」
「無理!」
「無理じゃねーよ、飛べなくなるぞ」
「うっ……」
首をすくめてちょこんと座るシルフ。
いつもそうしていれば可愛らしいのだが、残念ながらそうでもないらしい。
ちょっと心配だが、シルフを一人残して、サラマンダーを探す。
場所ぐらい教えてくれればいいのに。
「……空に会ったら、謝ろ」
覚えているのかな、あいつ、あのこと。
何ですぐに謝らなかったのか覚えてないけど、そんな言い訳より謝るほうが先だよな。
一度大きく深呼吸すると、方向も定めぬまま走り出した。