複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.35 )
日時: 2015/11/23 17:41
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)


立ち込める血のにおい。腐った肉のにおい。
どれにも大きな白い布がかけられている。ご丁寧に。

「この棚に遺体引き取り先と名前と描いてある、まあ簡単に言うと『籍』がある。
これ読んで遺体を分けてくれ」
「これ、籍? なるほど、なるほど……」

俺は今耐えている。とても必死に耐えている。
が、たぶんそろそろ限界だ。

「……サラマンダー、俺、ちょっと外いっていい?」
「お前、声震えてるぞ 顔色も悪い……真っ青だ」
「ちょっと、ね……」

そして、俺はそっと部屋を出て……
こみ上げてきたものをすべて吐き出す。

「おえっ…ぐ、ゲホッ……」

……だって、普通に異常だろ。
その狭い部屋になんであんなにも死体敷き詰めちゃうわけ?
そもそもまず死体っていう時点で無理だわ。吐き気がする。
戦場って言っても、やっぱり俺は俺。

「……ただいま。で、俺は何すればいい?」
「目が死んでるぞ」
「へーき、へーき」

強がってみたけど、まだ胸に違和感が残っている。
あー、吐きそう。もう一回吐きそう、吐くわ。

「この籍を見てシルフに遺体を運ばせ……れないな
とりあえず遺体を俺の言うとおりに分け……大丈夫か?」

サラマンダーが言い終えるより早く俺は外へ。
あー、気持ち悪っ。朝ほとんど食べてないから胃液みたいなのしか出ないけど。
「あー、すっきり」とか言ってみせる俺に不信な顔をするサラマンダー。

「……」
「そんな顔すんなよ、サラマンダー 大丈夫だって、慣れなきゃな」
「じゃあ……この籍を使って……」

サラマンダーの指示を聞いて、とりあえず一連の流れを頭に入れる。
あとはこの環境になれるだけ。
俺は次の布を取ってその死体を確かめ……。

—————

目の前に、夕焼け色の雲が見えた。

「あれ……?」

おかしいな、俺さっきまで遺体処理の部屋にいたはず。
なのに、俺は外で横になっていたようだし、しかもサラマンダーが俺の脚を枕にして寝ている。
……たぶん、あれだ。血とかを見た俺がぶっ倒れたパターンだな。
かっこ悪! でも死体見ることなんか滅多にないし、いいよな?
別に俺悪くないよな? 悪くない! 悪くないぞ!
それにしても何でサラマンダーまで一緒になって寝てるんだ。
無防備にしやがって、お前本当にリーダーの自覚あるのか?
ちょっとその真っ黒な髪に触れると、彼は寝ぼけているのか、その手をつかみ、

「いででででで! 痛い! サラマンダー! 握るな! 手首折れる、ギシギシ鳴ってるっ!」
「……お前な、気を失うくらいなら早く言えよ
俺はお前を運び出すのに疲れたんだ あとお前軽いから、もっと食え」

起きてる!? 今起きた!? どっちか知らないけど、手首手首!
俺細いから! スマートだから! 折れちゃうって!! 離せぇ!

「痛い! マジ痛いから! 次から気をつけるってば!」
「うん、気をつけろ」

サラマンダーはようやく手を離した。
この馬鹿。か弱い俺に何てことするんだ。
そして握力強え。

「……なあ、リーダーってもしかして握力とかで決めてんの? 腕相撲とか」
「そんなわけないだろ 普通に実力だ、実力」
「だってお前、弱そ……痛い! ごめんなさい! リーダー様は強いです、はい!」

サラマンダーはこちらをじろっと睨んで俺の手を離した。
うわー、手首に赤く手の跡が残ってる。どんな力で握ったんだ、こいつ。
そういえば、昨晩も戦場での迫力はすごかった。
なんか……うん、すごかった。具体的に思い出せないけどすごかった気がする。
足速いし。
でも、今、ちょっと寝ぼけたような顔でムクリと起き上がる姿は、どこか幼さも感じさせる。
年は俺とそう大差はなさそうなのに、革命軍のリーダーって言うのも、違和感しかない。
そういえば、ドラゴンとか何とかって言うのも気になる。どう見ても人間だし。

「ぼーっとしててもいいが、おいていくぞ」
「……あ、うん」

先を歩くさほど大きくもない背中。その影を踏んで、俺は考える。
……サラマンダー、お前は何者だ?