複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.39 )
日時: 2015/11/30 15:59
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)


俺は平和に町を歩いていた。
レトロな雰囲気の住宅街とか、にぎわう市場とか。
ちょっと、野原みたいなところを歩いていただけだ、何も悪いことはしてない。
……何で今、戦争に巻き込まれてるんだーッ!

街まで来て戦争、しかも俺観光に来たから武器も何も携えていない。
強いて言うなら、元の世界から持ってきたナイフ(錆びていたのをノームが研いでくれたらしい)ぐらい。
まさか、丸腰で戦えと? 無理無理。
というわけで、いつも通り、高いところへ。
うむ、ここは森じゃないから背の高い木がないな。
高いところには隠れられない。却下。
どうしたものか。
その瞬間、耳の横を何かが通り過ぎた。
間違いなく、刃。俺は幸運にも耳を切った程度で済んだが、次はどうか分からない。
その兵士が誰かの確認できないまま適当にその兵士を巻くように走っていると、
足元を気にしていなかった俺は、躓いた。

「わ、ぶっ」

そのまま近くの茂みに顔面からつっこむ。
いてて、まあ殺されるよりましだけど、今のかなりダサい逃げ方だよな。
立ち上がったとき、聞き覚えのある声が聞こえた。

「うぐぁあッ!?」
「…ッ!」

間違いない、ソラの声だ。
向こうに見える、白い髪。2本の刀。
そして、その相手をしている黒髪は。

「かわされたか」

サラマンダー。
俺の常識の欠けた頭で必死に考える。
サラマンダー、革命軍のリーダー。炎をまとったでかい剣で戦っている。
ソラ、元剣道部の主将。県大会優勝経験のあり。
そして俺、弱い。つまり、俺の出る幕じゃないよな! 隠れていよう!
……さすがに言い訳にもほどがあるか。でも事実だぜ。
そんなわけで、少し近いところで、木陰に隠れる。

「まさかまた会うなんてな」
「ん? 会ったことあったっけか?」
「……一昨日の戦地で会ったよね?」
「悪い。真面目に覚えてないんだ」

……あのポンコツサラマンダー。一昨日のことくらい覚えておけよ。
白い髪なんて珍しいのに、本当に人間に興味がないのか、何なのか。
って言うかあの二人、接触があったのか? 一昨日ってことは……あの夜か。
そういえば、あの時点でかなり強そうだったもんな、空。
あれ? もしかしてヤツはずっと前からこの世界にいる、言わばそっくりさんってヤツ?
だとしたらかなり俺が勘違いしてることになるけど……ま、いいか。
そんなくだらないことを考えていたら、俺の頭上に刀が舞った。
うわ、近距離って危ねー! 見つかったか!?

「えッ……?」

サラマンダーは驚いた顔をした。
ソラが刀を投げたことに、ではない。ソラの後ろに俺がいることに気づいたのだ。
もし彼が今周りに構わず叫べる状態だったら、間違いなくこういうに違いない。
「お前なんでここにいるんだ、バカ!」ってな。
当然、ソラはその隙を逃さなかった。

「サラマンダーッ! 危ないッ!」

お前が危ないだろ、アホ! ……サラマンダーの金色の目がそう言っている。
そうですね、でも俺戦いに来たんじゃなくて、巻き込まれただけなんで。
ソラはすばやく振りかぶった。
あの軌道は、あの手つきは、あの踏み込みは……面。
そんなこと考える間もなく、ソラの刃はサラマンダーを捉えた。
サラマンダーの肩が赤く滲む。
すぐそばの地面に刀が突き刺さる。
サラマンダーはもちろん、ソラも相当の体力を使ったのか、わずかに動作が鈍い。
今、俺がこのナイフで仕留めれば、いや、でもソラは……。
足が、動かない。
今俺が空を捉えるのは、容易い。でも、俺はきっとソラにそんなことはできない。

ふと蘇る、鮮やか過ぎる光景。
まだ髪の黒いソラ。彼の頭部から流れる、鮮血。
かすかに動いた唇。
加害者の俺に、被害者の彼の声は聞こえない。

「リーダーッ!」

ノームの声だ。
一体どれだけタイミングよく来るんだよ!
今、俺がするべき行動は一つ。
ノームの拳を、なんとしてでも、止める。
あっ、無理だ、止めるのは無理。せめて、軌道をそらす。
特に無計画に飛び込んだ俺は、ソラを突き飛ばすことだけを考えて、手を伸ばした。
驚いたノームは、狙いをはずし、その拳は間違いなく俺の肩にヒット。
俺はその力を受け流すようにゴロゴロと転がった。
まあ、ここまではある程度計算していた。よかった、俺の肩が砕けなくて。

「トライデントさん!?」
「伝斗だって……」

幸い、つっこむくらいの余裕もある。
少し肩を回してから、たった一つの計算ミスに気づく。

「あれ? 俺のナイフは?」

そう、俺は、ナイフを握ったままソラに突っ込んだ。
そしてナイフは、ソラの腹部に。
俺が刺した?

「ソラ、大丈夫か? 大丈夫……じゃないよな」

返事がない。まさか、死んでないよね?
その間にもノームはサラマンダーを担いでいる。

「……下ろせ、俺は一人で歩ける」
「リーダー、何やってるんですか 私がいなかったら、危ないところでしたよ」
「うるさい、このくらいの傷ならぜんぜん余裕だ」

……あいつ、まだあんなこと言ってるし。
俺もソラを担いで、2本の刀を回収する。

「おい、伝斗 そいつどうする気だ」
「つれて帰る 少し話がしたいし 別に手当てぐらいならいいじゃん?」
「……北の丘の拠点に行く、あそこならベッドが3つあったはずだ シルフも後で呼べばいい」

なに、ベッドが3つ!?
ついに俺もサラマンダーに添い寝しなくていいんだな! って言うかそこがダメでも前の拠点とかもあるし。

「私が運びましょうか?」
「ちょうどいい、俺は一人で歩ける」
「リーダーは安静です」

サラマンダーは頬を膨らませた。子供か。
せっかく街まで来たのに、ろくに何も分からなかった。
でも、とりあえず、今はソラの無事……あ、あとサラマンダーの無事が優先。

……ソラ、今度こそ俺、ちゃんと謝るから。