複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.40 )
日時: 2015/11/30 17:20
名前: 凜太郎 (ID: 1Fvr9aUF)

 いつからだろう、痛みを感じなくなったのは。
 いつからだろう、完璧を求めたのは。
 分からない、分からない。
 でも、痛いんだ。
 久しぶりに痛みを感じたようだ。
 それは身体的なモノなのか、精神的なものなのか。
 僕には、分からなかった。

−−−

 ゆっくりと目を覚ます。
 戦地で意識を失ったはずなのに、気付けば目の前には木でできた天井が広がっていた。

「・・・・・・が・・・・・・だから・・・・・・」
「・・・も・・・・・・よ・・・・・・」

 扉の向こうから話し声が聴こえる。
 その声には聴き覚えがある。
 サラマンダーと、デントだ。
 僕は辺りを見渡し、何か武器になるものを探した。
 離れた場所に刀を発見した。
 あれは僕のものじゃないか。
 ということは、今僕は捕虜になっているということか。
 それなら逃げなければ。
 僕は静かに体を起こし、刀を手に取った。
 腹部がまだ痛むが、今は文句を言ってられない。

「あれ、ソラ・・・目を覚ましたのか。あのさ・・・」

 その時、デントが入ってきてしまった。
 僕の脳内で黄色信号が灯る。
 マズイ、いや。コイツはたしかかなり弱かったはずだ。
 むしろ、サラマンダーとか巨人に見つかることに比べたら百倍マシだ。
 僕は刀を鞘から抜く時間も惜しかったため、渋々そのままの状態を首元にぶつけた。

「いってぇ!何すんだよ!?」

 デントが抗議するがかまってられない。
 僕は開いたままになっていたドアから駆け出そうとした。
 直後、鋭い痛みが走る。

「がぁッ・・・?」

 その場に倒れてしまった。
 顔を上げると、デントが心配した様子で近くに来ていた。

「ソラ。大丈夫か?お前、もしかしてあの時のことまだ・・・」

 そう言ってすまなそうな顔をした。
 待って、あの時のことって?

「あの時は本当にごめん。まだ、謝ってなかったよな」
「いや、ごめん。あの時って?なんの話?」

 僕が率直に質問をすると、彼はキョトンとした顔をした。
 直後、茶化すようにヘラヘラと笑った。

「何言ってるんだよ。ほら、前に椿と時雨がさ」
「ツバキ・・・って、花の椿?綺麗だよね。時雨は、時々降ったりする雨のことかな?」

 僕が知ってる限りの情報で聞いてみた。
 すると、彼は目を見開いた。

「何言ってるんだよ・・・あ、もしかしてあれか?記憶喪失とかの演技してるのか?上手いなぁ。あやうく騙されかけたよ」
「演技っていうか、そうなんだけど。ごめん、何も覚えてないんだ」
「へ・・・?」

 彼は真顔でフリーズした。
 いわば静止画像みたいな感じで。
 あれ、どうしたんだろう?
 そう思っていた時、いきなり肩を強く掴まれた。

「えっと・・・?」
「じゃあ、じゃああの時のことは!?ほら、俺と二人で裏山に出掛けた時のこととか、あと4人で自転車で隣町まで出掛けたこととか!」
「待ってよ。落ち着いてってば・・・ホントに覚えてないんだって。えっと、僕と君は友達だったのかな?」

 僕の質問に彼は愕然とした表情を浮かべた。
 僕の肩を掴んでいた手はスルリと離れた。

「その、もう行ってもいい?怪我の治療、ありがとう」

 とりあえず感謝の言葉だけ述べて僕は部屋を後にした。
 名前を呼ばれた気がしたが、気のせいだろう。