複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.41 )
- 日時: 2015/12/05 11:11
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)
「サラマンダー、あとシルフも。お前らはまだ安静。
絶対に動くなよ いいか、動くなよ!!」
「「ええーッ!」」
俺が念を押すと、二人の声が部屋に響いた。
「なんでぇ!? もう僕元気だよぅ!」
「口だけはな」
「俺だってこれくらいの傷ならまだ戦える!」
「腕上がらないヤツに何ができるって言うんだよ!」
まったく、こいつらは本当に怪我人かよ! 口ばっか達者!
心底あきれていると、ノームが部屋に入ってきた。
「騒がしいですね、
仮にも負傷しているんだから静かにしてください」
二人はふくれっ面のまま「はーい」と返事をした。
うん、ノームがいてよかった。俺一人じゃとても面倒見切れない。
「……ところでトライデントさん、ご友人の看病とかは、いいんですか?」
「あっ、そうだった。俺そろそろ行くわ」
「俺をおいていくな 暇すぎる」
「はあ? 無理に決まってるだろ シルフとでも遊んでれば(怪我人だけど)」
「そーだそーだ、お兄ちゃんは僕と遊ぼ!」
「……ちぇ」
サラマンダーは不満そうに頭から布団を被った。
お前、怪我してからなんとなく動作の一つ一つが可愛くなってるぞ?
こういうの、何て言うんだ? 幼児退行……?
……なんか違う気がするから黙っておこう。
「ハイハイ、あとでちゃんとお前の面倒も見てやるよ」
「……早くしろよ」
「はいはーい あとでなー」
まったく、子供なんだか何なのだか。
ソラのいる部屋をドアをそっと空けると、彼はゆっくりと立ち上がっているところだった。
「あれ、ソラ……目を覚ましたのか。あのさ……」
空はこちらを睨んだ。
何も言わずに立ち上がると、躊躇なく鞘を振り下ろした。
「いってぇ! 何すんだよ!?」
喚く俺にかまわず、空はスタスタと部屋を出て行く。
……やべぇ、ちょっと危なかった。ばれるかと思った。
ドキドキびくびくしながら空を追うと、急に彼は崩れ落ちた。
「がぁッ……?」
「ソラ。大丈夫か?」
———そんなこと、お前に言う権利なんてないだろ———。
じわじわとあのときの光景が浮かび上がってくるようで、吐き気がする。
ソラ、お前、もしかしてあのときのことまだ……。
「あのさ……あの時は本当にごめん。まだ、謝ってなかったよな」
さらっとその言葉が出たことに、自分で驚いた。
何今更言っちゃってんの? なんて嘲ってる自分がいることも否めないが。
「いや、ごめん。あの時って? なんの話?」
きょとんとするソラ。
俺の頬が少し引きつった。作り笑顔に必死だ。
「……何言ってるんだよ。ほら、前に椿と時雨がさ」
「ツバキ……って、花の椿? 綺麗だよね。時雨は、時々降ったりする雨のことかな?」
何言ってるんだよ……。
何そのボケ。笑えない。まじめで勤勉なソラらしいといえば、そうだけど。
あ、もしかしてあれか? 記憶喪失とかの演技してるのか?
上手いなぁ、あやうくだまされかけたよ。本気にしたじゃん。
「演技っていうか、そうなんだけど。ごめん、何も覚えてないんだ」
「へ……?」
嘘だ。嘘だ。
笑顔を保つことも忘れて、呆然と彼を見つめた。
嘘だろ? 何だよ、それ。
だったら、そんなこと……俺の決心はどうなるんだ?
俺はソラの肩につかみかかった。
「えっと……」
「じゃあ、じゃああの時のことは!? ほら、俺と二人で裏山に出かけたこととか、あと4人で隣町まで出かけたこととか! あと……」
何ムキになっちゃってんの?
……頭の奥がすっと冷えて、伝えたいことを見失った。
酸欠の金魚みたいにパクパクしていると、空は冷たく言い放った。
「その、もう行ってもいい? 怪我の治療、ありがとう」
こんなときでも律儀に礼を言っていく。やっぱり、ソラだ。
呼び止めることもできずに見送りながら、ふと、恐ろしい考えが頭をさえぎる。
もし———親しいと思っているのが、俺だけだったら?
ソラにとって俺は友達じゃないとしたら?
彼が俺を見捨てたとしたら?
……怖い。親しいことは、怖い。
相手を信用すればするほど、自分が弱くなる。
人はいとも簡単に裏切る。俺も、ソラも、誰であっても。
仲間意識は、我が身を滅ぼす。
もう十分分かっているだろう、そんなこと。
早く踏みとどまらなくちゃ、自分が傷つかないうちに。
———母さんのようになってしまう前に。
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「伝斗」
サラマンダーが部屋から顔を出した。ノームも見ていたらしい。
さりげなく覗き見してるじゃん、こいつら。
サラマンダーにいたっては、何アイツ逃がしてんだよ、って顔してる。
もともとずっと捕らえておくつもりもなかったんだけどね、俺は。
「ところで、私が作った刃のない刀、役に立ちましたか?」
「ああ、あれね。うん、すごくよかったよ 俺も見分けがつかなかったし」
・・・
……俺はタンスに隠しておいた本当のソラの刀をを取り出した。