複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.45 )
- 日時: 2015/12/19 23:22
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)
「あーっ!」
サラマンダーの大声が頭にガンガン響いた。
半分眠ったままの頭がくらくらする。
「おまっ、伝斗、バカ!」
「なっ、お前にだけは言われたくねぇよ! 大声出すなって!」
サラマンダーは大袋を片手に、こちらを睨んでいる。
……ああ、刀入れたことか?
そう考える前に彼は俺に飛び掛った。
「穴が開いたじゃないか! 穴が! もし中の物に傷でもついたらどうする気だったんだよ!」
「わっ、ごめんって! 中身が何か知らなかったんだって!
痛いから叩くな! お前けが人!」
「うるさい!」
うわあ、コイツだいぶ本気だ。激おこだ。
地味にコイツけが人なんだよな。どうやって止めようか。
「もう二度としない! 今日一日言うこと聞く! 何でも!」
「今日だけじゃ足りない、3日間だ!」
「わかった! 分かったから叩くな!」
やっと彼は手を止めた。
手首握ったときといい、今日といい、こいつは本当に手加減ってやつを知らないのか。
それにしてもこの中身って……?
やつの目を盗んで、そっと大袋を空けて中身を取り出した。
「骨……?」
大きな頭蓋骨だ。人間のものじゃない。
例えるなら、昔見た蛇の頭蓋骨。でもそれにしてははるかに大きい。
何でこんなもの保管してるんだ? そもそもこれ何の生物だよ?
「触るな! バカ!」
「いでっ」
サラマンダーの容赦ない蹴りが俺のみぞおちにクリティカルヒット。
そのまま骨も没収。
それにしても痛い。俺、細いから折れちゃうよ。
「サラマンダー、これって何の骨?」
「黙れ」
「なあ」
「黙れ これは命令だ」
3日間何でも言うことを聞かなきゃいけない俺は従う。
サラマンダーは勝手にソラの刀を拾い上げて物色している。
「いい刀だな」
「だってソラの刀だぜ 当たり前じゃん」
ソラは昔から完璧にこだわる。道具も、自分自身も。
そして完璧じゃない俺は見切りをつけられたってことで。
「……来る」
「ん? 何が?」
俺が考え事をしている間に何かサラマンダーは感じ取ったらしい。
俺には何もわからない。え? なになに? 敵?
サラマンダーは窓に目をやった。俺もつられる。
白い髪の少年。
「ぁぁああああッ!」
獣のような叫び。
普段の彼ではない、たびたび見せるその表情。
ああ、知ってる。
そうそう、アイツ、こんな顔もするんだよな。
サラマンダーはソラの刀を投げ捨てた。あわてて拾い上げる。
「おい、投げるなって……」
「……殺す」
静かに言い放った。
その横顔は、いつかの幼さはなく、その瞳には、怒りにも忠誠にも似た闇を宿していて。
———はじめてみる表情だ。
彼は刀を抜いた。その刃は瞬く間に炎に包まれる。
「穢れた人間に、生きる価値などない」
ああ、何言ってんだ、こいつ。
あきれながら、でも、熱いものがこみ上げて、吐きそう。
おい、俺。冷静になれ。ここで高ぶったところで、何ができる?
言い聞かせるように、大きく息を吐く。
「殺す、確実に」
とにかく、サラマンダーをとめなくては。
そのためには? まず俺一人では止められない。ノームを呼ぶ?
空も近づいてきている。今の空を止めるのは……無理そうだ。
そもそもノームは今どこにいるのだろう?
他に頼れるのは? 今窓の外に確認できる人影は……死体ばかり、あと少女が一人。
……八方ふさがり。少女しかいないし、彼女じゃ戦力にならない。
足音は近づいてきている。数秒でこの部屋に着く。
俺の所持品は刀2本。まずそれをソラに返して、そして……!
足音が、部屋の前で止まった。
「ダメだ……ッ」
扉がゆっくり開いた。
その向こうにソラが立っている。
蔑むような目に、思わず動けなくなった。
せっかくの作戦も、白紙へ帰る。
俺は刀を抱きしめる。
間髪いれず、サラマンダーが飛びかかった。
一瞬だった。生暖かい風が吹いて、サラマンダーの体が宙を舞った。
さすが、ソラはそのまま体を捻ってうまく着地。だが当然隙はできる。
再びサラマンダーはソラに飛びついた。ガギッと鈍い音がして刃が交わる。
「チッ」
また、ソラが間合いを取り、サラマンダーが攻撃する。
ソラのほうがしっかり間合いを見切れている。が、サラマンダーの動きは尋常になく早い。
サラマンダーの勢い、力強さがソラの正確でスマートな動きより勝っている。
見たところ、互角。動きの大きさからしておそらくソラのほうが有利じゃないか。
……違う。サラマンダーのほうが押している?
先ほど戦っていた疲れだけじゃない。
サラマンダーの勢いにのまれている。振り回されている。
ソラの動きには、乱されてはいるが多少の制御がある。サラマンダーには、それがない。
となると、サラマンダーが少しでも制御をかけて動きができれば、より互角に近づく。
互角であれば、より止める戦力を呼びやすくもなる。仲裁を入れるのも今より易くなる。
あと、二人とも優しい。
逆手に取るなら、俺じゃダメだ。もっと、か弱いヤツじゃないと。
「……すぐ戻る!」
誰も聞いていないことはわかっていたが、大声で叫んで駆け出した。
外には誰がいるかって? 少女が一人。
当然、彼女を利用しに行く。
—————
水色の髪をした少女。その瞳は赤い。
一瞬目があった。思っていたより強気な印象を受けたが、それでも武装はしていない。
この子でいい。彼女が巻き込まれれば……。
「あの……」
「すみませーん!」
何故だか知らないが、俺が様子を窺う前に少女は向こうから駆け寄ってきた。
遠くから必死に走ってくる彼女に、少し申し訳なくなった。
……やっぱり頼むのやめようかな。普通に可愛い子だし。
「その刀、どこで拾ったんですか!?」
「刀……これ?」
やばい、そういえばソラに返すの忘れた。
息を切らして、彼女は続けた。
「これは……私の……大切な人のもので……」
「大切な人……ソラ?」
「! お知り合いですか!?」
「うーん、なんていうか……」
この少女は、ソラの知り合い。よし、完璧だ。
彼女の言葉も耳に入らないまま、手首を取る。
「ごめん! ちょっと一緒に来てほしいから!」
さすがのソラも自身を見失ったって、関係のない人間、少女を傷つけるわけがない。
サラマンダーは……思ったより優しそうだから、それに賭ける。
頼むからまだ決着がついていませんように!
転がり込むように二人を残した拠点へ駆け込んだ。
—————
あまりにもその女の子が疲れているように見えたので、一度呼吸を整えてもらう。
「どういうことですか!? あなたは、いったい……!」
「ソラがいるんだけど……喧嘩中って言うか……俺一人じゃ止められないし、連れ帰ってもらおうと思って」
「あの……ソラさんとはどういう関係ですか?」
「……いやぁ、ちょっと仲がいいって言うか、俺が頼ってるだけでソラには嫌われてるって言うか」
しどろもどろになる俺に、彼女は小首をかしげた。
……この状況でこんなこと言うのもなんだが、なかなか美少女だ。
髪もすげぇサラサラ、折れそうなほっそりとした身に合わずその目は凜として、きれい。
俺のほうが気になってきた、この子ソラとどういう関係だろう。
「あ、そうだ、ちょっと危ないけど、大丈夫かな?」
「はい。私こう見えても『氷の中将』の娘ですから」
……氷の中将?
とにかく、大丈夫といってくれたので、あの部屋に突撃!
「お、おい、お前ら!」
扉を開けると、まずソラが持っていた目の前に折れた刀があって、
サラマンダーの刀はドアに突き刺さってて、火も消えてるし。
ベッドからは、ワラやら羽やらがばら撒かれているし、タンスも扉が一つ焦げている。
そして、二人はという遠くのほうでサラマンダーが馬乗りになっているというか。
……なんかわからんが壮絶な戦いがあったんだな。
「ソラさ……っ」
少女が声をあげて、そのまま息をのんだ。
部屋にいる二人も動きを止めた。
時間が止まったかのように、静寂が生れた。
「さー、くん……」
少女がかすかに唇を震わせた。
サラマンダーは彼女を見つめ、奇妙に、眼を大きく見開き、
泣きそうな表情をしたかと思ったら、そのまますごい勢いで窓から飛びおりた。
それにつられ、魔法が解けたように俺と女の子が窓に駆け寄る。
「バカマンダー!」
「サー君!」
ソラだけが意味が分からないといった様子でこちらを見ていた。
はっきり言って俺も展開の速さについていけない。
……この子、サラマンダーの知り合い?
「……可愛いね。このあと、時間、ある?」
ナンパのような台詞に、ソラが俺をキッと睨みつけた。