複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.47 )
- 日時: 2015/12/24 22:45
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)
「次は殺す……絶対殺す……」
サラマンダーは物騒なことをつぶやきながら足を引きずるようにして歩く。
大丈夫か? コイツ。とり憑かれたみたいに表情をころころ変えるし。
さっきのクールさは何処に消えた!?
「ソラなんてお前なら、それこそ怪我が全快したら簡単に、その……」
言葉を切った。どうしてもその先を言うのが怖くなった。
殺せるよ、って?
今更、俺は何を戸惑っているのか。
こんな簡単に誰かが死んでしまう世界で、何を躊躇しているのか。
あんなに簡単に言えた言葉なのに、なぜ。
「あの少年は興味ない ほっといてもああいうのは自分からくたばる。
守るものが大きいものほど、その身を滅ぼす。
俺は……失うものも何もない」
「……うん? ならいいじゃん? 別にそんなに執着して殺そうとしなくても……」
「違う、違う。俺は……強い。強い、強いから……」
……熱でもあるんじゃないか?
足取りも不安定だし、なんかわけのわからないことブツブツ言ってるし。
これだから情緒不安定は!
「あ、そうそう、そういえば、ほら、あのラキちゃんとか何とかって子、知り合い?
知り合いなら紹介してよ。俺可愛い女の子の友達ほしいからさ」
女の子はいい。優しいし、面倒見がいい。あと雰囲気が柔かいし、温かい。
それに、女子にとって俺はイレギュラーになれる。だって異性だもん。
イレギュラーであればあるほど、相手に自分を強く刻み付けられる。
例え深い関係にならなくても、相手にとって自分はある程度の特別になれる。
……そう、俺がどんなに相手を気にしていなくても。
「違う……殺す。殺す。絶対に、次会ったら殺す。殺さないと、俺が弱くなる……」
「大丈夫かよ? お前言ってることが支離滅裂だぞ?
ほら、ちょっと休もう。この洞穴でいいだろ?」
—————
洞穴に腰を下ろす。
意外と狭くて、でもひとりで生活するには十分な広さだ。
地面に誰かが焚き火でもしたような焦げ付きが残っている。
俺もこれからここで布団敷いて寝ようかな。……いや、冗談だよ?
サラマンダーは膝に顔を埋めたまま、虚ろな眼をして何やらぼそぼそボソボソ言っている。
「殺す、殺す、殺す……絶対に、殺す」
「ハイハイ、で? お前は強いから、別に今更悩むことないだろ」
「殺す……俺は……あいつを殺せない……」
搾り出すような言葉。
ン? 殺せない? 誰を?
妙な引っかかり。こいつ、何を言って……まさか、ね。
「殺す……絶対に殺す……弱くなりたくない……俺は弱くない……」
「……なあ」
答えがわかっているのにそのままなのは、あまりにも歯がゆい。
サラマンダーにとってそれを認めるのは相当嫌なんだろうけど。
言ってほしくないと言えばそれまでだ。
でも、どうしても確かめておきたい。
サラマンダーのためにも……彼女のためにも。
「……ラキちゃん、でしょ。お前が今一番恐れている人」
「うるさい、恐れてなんかない。恐れてなんかない! 俺は……っ」
サラマンダーは顔を上げた。
ああ、やっぱり嘘だ。目には溢れんばかり透明な涙が溜まって、肩を小刻みに震わせて。
相当の見栄っ張りだ。敵相手に張っていた
何でたった一人の少女相手にこんなにビビッてんのかわからないけど。
「俺は……俺は、ラキを殺せない。彼女さえ殺せたら、俺は……強くなれる」
「……どういうこと?」
「俺は彼女を殺せない……ラキが憎い、憎い。憎いのに、殺せない。
何故? 何で俺は殺せない?……苦しい……ラキが憎い……!」
……。
それって……あれじゃん?
ちょっと頭をよぎった考えは、サラマンダーの口元を見て吹っ飛んだ。
口元から、手のひらへ。べっとりと張り付いた、朱。
「ってお前! なに吐いてんだよ! 血ィ!? うわっ、大丈夫かよ!?」
ノームを呼ぶか!? 俺じゃ、手当てできない……っ。
立ち上がって、思い切り頭をぶつける。頭の奥ががつんとした。
どうやらこの天井の低さ的に、ここは俺が生活するには向いていないようだ。
慌てて走り出そうとしたら、急にぐっと手を引かれた。
「……嫌だ……一人にしないで」
“置いていかないで、置いていかないで。一人ぼっちは、嫌……”
……同じだ。
本当に嫌な光景。俺まで何かに執着してるって言うのか?
そんなことない、雑念を振り払うように俺は首を振った。
「サラマンダー、とりあえず、拠点に帰ろう」
なんとか彼を抱えあげて、走り出した。
思っていたより、彼は軽くて、小さい。
サラマンダーは、実年齢よりも精神年齢がはるかに幼いと思う。
自分のコントロールもできない。後先を考えずに衝動で動く。超がつくほど寂しがりや。
……俺とそっくりだ。