複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.48 )
- 日時: 2015/12/25 21:47
- 名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)
僕は、弱い。
あの時、ラキがいなかったら、僕は死んでいた。
僕は、彼女を守りたいだけなのに。
「どうして・・・」
自分の手を見る。
まめだらけ。
これは、努力の証だと思ってた。
でも、違った。
努力は、報われて初めて努力なんだ。
報われなかったら、それはただの・・・———徒労。
「うッ・・・」
何かを吐きそうになった。蹲る。
こんなことを考えながらも、僕はずっと町を走っていた。
すでに、5時間くらいかな。
「もっと・・・強くならないと・・・」
フラフラと立ち上がり、また走り出す。
強くならないと、守りたい物も守れない。
気付けば、家の前に着いていた。
安心からか、気が抜けて一気に吐き出す。
あぁ、ラキが折角作ってくれた朝ごはんが・・・。
「朝から盛大に吐いているね」
頭上から声がしたので顔を上げると、黒い短髪に垂れ目な男性が立っていた。
見おぼえないな、この顔。
「誰ですか、あなたは」
「おっと、自己紹介が遅れたね。僕は福田龍之介」
「ソラです。この辺りじゃ、そんな名前聞いたことないですけど・・・」
「何を言っているんだい?君も同じような名前だろ?」
彼はそう言った。
え?同じような名前って?
「あの、一体なにを・・・」
「晴太 空」
そう言っていきなり僕のことを指差してくる。
「それが君の名前でしょ?」
「はぁ?」
彼は一体なんなんだろうか。
僕は誰かに苗字なんて名乗った覚えはないんだけど。
そもそも覚えてないし。
「ふふ、研究所の近辺に住んでいた人の顔と名前は暗記しておいたからね」
「研究所って、あの、なんの話してるんですか?」
「なにって、もしかして君・・・」
急にズイッと顔を寄せられて僕はたじろぐ。
な、なんなんだ?
「あぁ、君もしかして記憶喪失かい?」
もしかしなくてもそうだよ!
と、脳内で反論する。
しかし、それは口にしない。
その時、頭がズキンと痛む。
『生きたい?』
そう語りかける声。
あぁ、そうだ、この世界に来る前か来た後。
朦朧とする中で、聴いた声。
「もしかして、どこかで会ったこと・・・」
「やっと思い出したか」
そう言って優しく微笑む。
「命の恩人を忘れるなんて、ひどいじゃないか。頭から大量に血を流す君をこの町の適当な家まで運ぶのに苦労したよ」
「その節はどうも。それで、結局何の用なんですか?」
「クールだねぇ。今日は君に見せたい物があってね」
そう言うと、スマホを見せる。
へぇ、この世界では初めてみた。
「あの、それは?」
「前に君を助けた場所で見つけたのさ。雨で水没してたけど、さっきなんとか直ったからね。渡しておこうと思って」
そう言って僕に投げて渡す。
慌てて僕はそれをキャッチした。
「それじゃ。また縁があったら会おうね」
「はぁ・・・分かりました」
福田さんが立ち去るのを見送ってから僕はスマホに目を向ける。
久しぶりに持ったような気がする。
というか、これは動くのか?
僕は恐る恐る電源を付けた。
次の瞬間、画面が光る。
それは画像フォルダだった。
それを見た瞬間、背筋が凍る。
様々な情景が、脳内を巡る。
笑う美少女。 僕をからかう小学生(?)
僕を軽く叩くデント 笑い合う4人
裏山の秘密基地 柵から落ちそうになるデント
隣町で迷子に 電車の中で居眠りしてイタズラ書きされるデント
頭から血を流す僕 立ち尽くすデント
・・・違う。伝斗。椿。時雨。
僕の大事な友達。
あぁ、なんで忘れていたんだろう。
僕の名前は、晴太 空だ。