複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.49 )
- 日時: 2015/12/26 23:31
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)
サラマンダーをベッドに運んで、吐き出した血を拭くために布を探しに外に出る。
ああ、寒い。
ぜんぜん気がつかなかった。いつの間にこんなに冷え込んでいたのか。
冬だ。
俺の一番嫌いな季節。
—————
町はクリスマス一色。赤、緑、白、金。
俺だけが真っ黒ななりをして。
ならにぎやかな場所に行かなければいいのに、俺はわざわざ大きなスーパーマーケットで一人。
目の前を通り過ぎる人は皆、一人じゃない。若いカップル、孫を連れた老人。
冷ややかな目で、彼らを見つめる。誰もが俺にはないものをもっている。
一組の親子が前を通った。
小さな女の子。母親。二人は仲良く手をつないで、ドーナツ屋に入っていく。
きっと二人がこれから口にする菓子は、歯の浮くほど甘ったるいのだろうと。
そして、それは自分の口には合わないのだろうと。
そんなことを考えていたら、たまらなく悔しくなって、すぐにその場を離れた。
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今思えば、何て幼稚な妬みだろうと思う。
たかが親子が目の前を通っただけで、嫉妬された側もいい迷惑だ。
たかが一緒に過ごす人がいないってだけで、何も悲観的になっているのか。馬鹿馬鹿しい。
でも、と俺は同時に思い出した。
その次の年、4人で食べたドーナツは、頬が落ちるほどおいしかった……。
“ごめん。何も覚えてないんだ”
俺にとってソラがどんな存在であったとしても、ソラにとって俺はその程度に過ぎない。
あの出来事も、この思いでも、ソラの中では忘れてしまうほどのちっぽけな存在だと。
それならいっそ、俺もこの世界で生まれ変われるなら。
遠くに大きな影を見つけた。ノームだ。
「ノーム! ごめん、タオルか何かないかな。サラマンダーが、血を吐いて……」
「ああ……いつものあれですね」
『いつものあれ』?
いつものあれって、え? サラマンダーしょっちゅう血ィはいたりしてるの?
「ああ、リーダーはちょっと気が動転したりするとそうなるんです。
普通なら血が出ないようなところから出血したり、別人のように表情を変えたり」
「え? それってやばいんじゃねぇの?」
「大丈夫でしょう、今までも特に何もありませんでしたし……
ほら、彼……混血種ですから」
ノームがそれを言った瞬間、ドキリとした。
“そもそも俺みたいな混血種を受け入れるやつは少ないんだよ”
『混血種』……周りのものはどれだけ容易くその言葉を口にしたのか。
たった一言で、どれだけサラマンダーが追い詰められてきたのか。
顔に、手足に、冷たいものが張り付いて麻痺するような感覚。
脳の奥がすっと冷え切っていく。
騙されるな、伝斗。優しさなんて、装飾に過ぎない。
「こんな布切れで足りそうですか?」
「ん、ありがと。じゃ、またあとで」
俺は布をノームからひったくると、逃げるようにその場を去った。
—————
「サラマンダー、具合どう?」
案の定あいつは寝ている。
顔中を吐血で真っ赤にして、まるで手のかかるわがままな子供だ。
布を濡らしてくるのを忘れたから、ちょっと強引に擦り落とすようにふき取る。
長い前髪を書き上げると、そこには切り傷のような大きな痕があって。
幼い表情に、それがたまらなく不釣合いで、マジでウケる。
額の傷。場所が場所なだけに、どうしても嫌なことを思い出してしまう。
お前にはもうあの時の傷は残ってないだろう、ソラ。
そうやって傷が癒えていくみたいに、思い出なんて全部消す。
どうせ忌まわしいことしか覚えていないのだから……。