複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.51 )
日時: 2015/12/29 18:26
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: KNtP0BV.)


「みてみてっ」

シルフは川の中を走り回って、魚を追いかけては川に顔をつっこんでいる。
どうやら彼女なりの漁の方法らしい。
この前の怪我も、安静を守った結果あっという間に回復したようだ。

「ふぇんほ! ははな! ははなほっはろ!(伝斗! 魚! 魚捕ったよ!)」

くわえた魚が暴れてそのまま逃げられた上に、シルフは転倒した。
まったく、これではすぐにまた怪我をしそうだ。
体をふるって水を飛ばし、彼女はこちらに駆けて来た。

「休憩! ところで今日お兄ちゃんとノームは?」
「ノームは破壊されたアジトの修理と、新しい拠点の準備。
サラマンダーはずっと寝てる。
ま、寝てなくても、怪我した状態であれだけ暴れたら安静にする他ないだろうけど」

俺はというと、シルフのお守り。
ノームは他の魔物とかと一緒にやるって言ったから、俺なんかじゃたぶん力になれないし、
サラマンダーは看病なんかしなくてもずっと寝てるし。相当疲れたのか。

「シルフはもう怪我のほうは?」
「僕? ぜんぜん元気! 元気すぎて思わず魚が逃げちゃうくらい元気だよ!」

それはいいのか、悪いのか。
でもシルフはカラカラ笑ってるしすごく元気いっぱいだから、まあいいのかな?
平和だ。とにもかくにも平和だ。

「暇すぎて死んじゃう! なんかお手伝いでもしにいこうよ〜!」

シルフも同じことを考えていたらしい。
まあ、そうだ。この前までの目まぐるしさを考えたら、今は退屈の極みだ。
だからといって、ノームの仕事を手伝えるとも思えないし。

「そういえば、俺前リタイアしたけど、したい処理の仕事を少し手伝ったんだよな」
「あ! それやろう! 僕も手伝う! お兄ちゃん一人でやってる仕事だから、たぶん溜まりに溜まってるはずだよ!」
「って、お前、速っ!」

まるで手を引かれるかのように、駆け出したシルフを追いかける。
ああ、いつかもこうしてみんなの後を追いかけた。いや、自分が前に来ることのほうが多かったか。
しみじみとした気持を振り払う。このままじゃ俺はいつまでも俺のままだ。
忘れろ。全部。
頭の奥がすっと冷え込む。

「伝斗! はやく、はやくっ! 二人でがんばって、お兄ちゃんビックリさせよ!」
「あ、うん」

それはほんの一瞬で、すぐ意識がふっと戻る。
今の感覚……なんだ?
俺の返事に違和感を覚えたシルフが、不思議そうにこちらを見ている。

「どうかした?」
「いや、何でも。ただ……ほら、前俺ここに来て倒れたなって」
「知ってる! お兄ちゃんが言ってた!」

あいつペラペラしゃべりやがって!
あとで寝ていたらサラマンダーの顔にひげを書いてやろうと心に決める。

「はーやーく! 伝斗いないと仕事にならないじゃん! 僕字が読めないんだから!」
「来た来た、今ついた! よし、サラマンダービックリ作戦だ!」
「おーっ!」

二人でこぶしを突き上げた。