複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.52 )
日時: 2015/12/29 21:31
名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)

「ハッ・・・油断しているじゃないか」

 誰かがそう呟いたのを僕は聴き逃さなかった。
 たしかにそうだ。
 革命軍の拠点、戦時中だということを除けば、楽しく平和な生活を送っているのだから。
 僕たちは今、各々で木の上や草むらの中などから様子を伺っているのだが、なんていうか・・・本当に今は戦争中なのか疑いたくなるような状況だった。
 ノリノリで死体処理をする少年(伝斗)と少女シルフ
 伝斗って前から周りの空気が読めないと思う部分はあったが、死体ってあんな風にノリノリでやるものじゃないだろ。
 僕は多少の憤りを感じながらも、隣の木の上で様子を見ているグレンさんに視線を送る。
 グレンさんはこくりと頷く。
 やはり、革命軍はクズだな、改めて思う。
 今この状況で記憶が無い状態だったら、すぐに伝斗を斬り殺していることだろう。
 そう考えると、あの時記憶を取り戻していてよかった。

「よし、行くぞッ」

 グレンさんの合図に、僕たちは一気に攻め込んだ。

−−−

 剣がぶつかる音が響き渡る。
 周りはとっくに戦場と化した中、僕は適当な建物の屋根に登って友人の姿を探した。
 どこにいる?
 彼は、どこにいるんだろうか?
 とにかく辺りを見渡す。
 ダメだ、人が多すぎる。
 しかし、不幸か幸いか、国王軍の方が圧倒的に人数は多いので、革命軍の存在はそこそこ目立っていた。
 ほら、今も国王軍の兵士が革命軍の少年を斬ろうとしてるし・・・あれ?

「伝斗ッ!」

 僕は咄嗟に屋根から飛び降り、ちょうど着地する場所にいた革命軍の兵士の頭を踏み台にしてさらに遠くまで飛ぶ。
 上手く地面に着地して、伝斗に振り下ろされそうになっていた剣を刀で弾く。

「なッ・・・俺は味方だぞッ!」
「すいません。でも、彼は友人なので」
「はぁ?」

 呆ける彼の顎を蹴りぬき気を失わせる。

「・・・そら?」

 伝斗が目を見開いてこちらを見ている。
 僕は何か言おうとしたが、言葉が出てこない。
 忘れててごめんって?あの時のこと謝ってくれてありがとうって?
 今更何を言えばいいんだ?
 僕は、僕は・・・。

「ソラッ!」

 直後、背後から声がする。
 振り返ると、グレンさんが大剣を振りかぶってこちらに走ってきていた。
 そうだ、伝斗は革命軍なんだ。
 僕は咄嗟に間に入る。

「邪魔だッ!どけッ!」
「嫌ですッ!」
「空。お前何を・・・」

 僕は伝斗の手を引いて逃げた。
 僕がグレンさんに勝てるわけない。
 とにかく逃げないと。
 そう思っていた時、手を振り払われた。
 振り返ると、伝斗がよく分からないといった表情で立っていた。

「空。急になんなんだよ。どうせ、俺や時雨たちとの思い出なんて全部覚えてないくせに・・・」
「ごめん・・・忘れてて」

 咄嗟に謝る。
 別に僕だって忘れたくて忘れたわけではないが、それは言い訳でしかない。

「・・・・・・じゃあ、俺が一学期の期末テストの数学で取った点数は?」
「67点。中間より下がったって言ってたよね。もっと勉強しなよ」
「うるせぇ」

 茶化すように言って僕の肩を軽く殴る。
 僕はどう反応すればいいのか分からなかったのでとりあえず話を濁すことにした。

「でも、ホントごめん。みんなのこと忘れるなんて、どうかしてた」
「さすがの俺でもかなりへこんだんだぞ?あっちの世界帰ったら何か奢れ」
「いつもそれじゃん」

 僕たちは笑い合った。
 よかった、意外とあっさり仲直りできて。
 そう思った時、草むらの陰から長い刀が飛び出してきた。
 慌ててかわす。
 見ると、サラマンダーだ。

「お前ッ・・・」
「殺すッ!」

 僕はすぐに刀を抜いてバックステップで距離を取る。
 すぐにサラマンダーが距離を詰めてくる。
 刀をぶつける。
 やはり、強いッ・・・。
 その時、後ろに下げた足が空を切る。

「え・・・?」

 見ると、そこは崖だった。
 そういえば、グレンさんが注意してたな。
 崖があるから、気を付けろって。
 僕は咄嗟にサラマンダーの腕を掴む。
 道連れとか、助かりたいとかそういう気持ちではない。
 ただ、反射的に・・・・・・。
 そのまま僕たちは、重力に身を任せた。