複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.54 )
日時: 2016/01/10 21:41
名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)

「うぐッ・・・ぁッ・・・」

 目を開けると、目の前には森が広がっていた。
 なるほど、崖の下は森だったのか。
 そういえば、サラマンダーも一緒に落ちたハズだが・・・。

「うぅッ・・・」

 遠くから声がした。
 見ると、それはサラマンダーだった。
 体全身が痛むし、関節も軋むような感覚だが、関係ない。
 僕は咄嗟に彼に駆け寄る。

「おいッ!だいじょ・・・」

 うぶか、と言う前に喉元に刀が突きつけられていた。
 ・・・え?

「貴様・・・殺すッ・・・」

 息切れをしながらもハッキリと、そう言った。
 よく見れば、彼も僕も傷だらけだ。
 浅い傷は多数、僕の左手は、枝に引っかけたのか縦に皮膚が裂け、血がドクドクと溢れ出てくる。
 サラマンダーは額から血を流し、ポタポタと地面に血だまりを作っている。

「殺すって・・・今は殺し合いがしたいんじゃない。それに、君も僕も、ひどい怪我じゃないか。治療しないと・・・」
「うるさいッ!俺に触るなッ!汚れた人間がッ!」

 傷に触れようとした僕の手を、彼は刀を持っていない方の手で弾いた。
 痺れるような痛みが走る。

「汚れたって・・・なんだよ。僕はただ君を・・・」
「人間は皆汚れてる・・・お前だって、心の中では俺のこと、汚いとか醜いとか、思ってるんだろ?」

 はぁ?いきなりコイツは何言い出してるんだ?
 僕は呆けるしかなかった。

「なんで汚いとか思わないといけないの?えっと、サラマンダー君だっけ?汚くないし醜くもないと思うけど?普通の人間じゃないか」
「人間って・・・俺はドラゴンなんだよ。見た事あるかは知らねえけど、頑張ればドラゴンに変身できる」
「だから何なんだよ?種族が違うからって、汚いわけじゃないと思うけど」

 僕の言葉に彼は首を傾げた。
 あれ?なんか変なこと言った?

「あはははッ!」

 かと思いきや、いきなり笑い出した。
 腹を抱えて、大きな声で。
 これは僕が呆ける番だ。

「はははッ・・・は・・・国王軍でも、そう言うやついるんだな」

 笑い終えて、空を見上げながらそう言った。

「別に種族が嫌いで国王軍に入ったわけじゃないから」
「まぁ、そんな感じには見えないけどな」

 彼はフラフラと立ち上がった。

「ま、多少はお前のこと見直したよ」

 そう言って手を差し出す。
 これは握手かな?
 僕も手を伸ばして、今、握手を・・・・・・———。

 パァンッ!

 響き渡る、銃声。
 サラマンダーの腹から血が吹き出す。
 とはいえ、さすがは革命軍のリーダー。
 少しよろめいただけで済んだのだから。

「え・・・?」

 今、何が起こったんだろうか?
 それを考えるよりも先に、2発目の銃声が響く。
 パァンッ、と。
 それは少年の足に当たり、倒れ伏す。
 血が水溜りを作る。
 あれ?雨でも降ったのかな?
 雨って、赤かったっけ?
 そんなことを考える数秒間。
 そして、サラマンダーが撃たれたことを脳が理解する。

「ぁ・・・ぁぁ・・・」

 喉の奥から声が漏れる。
 なんで?何が、あれ?

「ソラ君ッ!」

 背後から声がする。
 見ると、それは30代くらいの、国王軍の兵士だった。
 そして手には、拳銃が握りしめられていた。
 えっと・・・?

「ぐぅぁ・・・はぁ・・・ぐッ・・・」

 2発も銃弾を喰らってもなお、彼は生きている。
 なんていう生命力だろうと僕は思った。
 と、同時に安心した。
 生きていて良かったと、本当に・・・———。

「まだ生きていたのか、穢れた種族め」

 パァンッ!パァンッ!
 さらに響く乾いた音。
 サラマンダーの体が反り返り、ビクンビクンと震える。

「・・・め・・・」

 パァンッ!
 さらに撃たれる。
 だんだん、彼の震えが小さくなっていく。

「やめ・・・」

 パァンッ!
 さらに一発。
 ついには、動かなくなる。
 死んだのかは分からない。何も、分からない。

「クソ、弾切れか。そんなことより、ソラ君!大丈夫か!?ひどい怪我じゃないかッ!」

 男はそう言って僕の肩を掴む。
 ひどい怪我?
 それは、僕のこの程度の怪我を見て言っているのか?
 僕より、もっと重傷なやつが目の前にいるのだが?

「大丈夫です・・・これくらい・・・」
「そうか?それならいいんだが。それより、いやぁ大手柄だよ!君のおかげで彼を殺せたよ!」

 え?僕のおかげ?
 それって、それってどういう意味なの?ねぇ!?

「君が彼の相手をしていたおかげだよ。そうじゃなきゃ銃弾なんて当てられなかったよ。さっすが、期待の新人兵!」

 笑顔で僕の肩を叩く。
 僕は適当に笑っておいて、その場を立ち去る。

 今更じゃないか。
 この世界に来て、僕は人を殺し過ぎた。
 この手はすでに、血で汚れきっている。
 僕が殺した中には、生きていれば歴史に名を残すはずだった人がいるかもしれない。
 生きていれば結婚して幸せな人生を送るはずだった人間がいるかもしれない。
 生きていれば、生きていれば。
 でも、全部終わり。
 僕が、終わらせたんだ。
 僕には、人を殺す才能がありすぎるッ・・・。

「ごめんなさい・・・」

 呟く。

「ごめんなさいッ・・・!」

 呟く。

 月の光に、首から吊るした魔法石が揺れていた。