複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.55 )
日時: 2016/01/13 16:59
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)



「……んと……伝斗! 何ぼうっとしてるの?」
「……時雨? 俺、何やってたっけ?」
「はあ? 空の剣道の試合見に来たに決まってんじゃん! もう帰るところだよ! みんな待ってるって!」

……あれ?

「時雨、お前背ェ縮んだ?」
「うるさいよ! どうせ1年生かと思ったとか言うんでしょ! 6年生ですから! ほら、行くよ!」

時雨に強引に手を引かれる。
ここは……俺、何でこんな場所に……?
あたりを見渡そうにも、まるで機械になったかのように頭が回らない。
ただ、シナリオに従うように、俺の体は勝手に動く。
連れて行かれた先には、当然のように空と椿がまっていて、「はい」と竹刀を渡された。

「今日僕が優勝したら、荷物持ちしてくれるんだったよね?」
「……へ?」
「朝自分でそう言ったじゃない」

……そう言ったらしい。椿が言うなら、ほぼ間違いない。
仕方ないから、防具を背負って、竹刀を担ぐ。

「でも実際は命懸けで戦うんだろ? 空なんかそんなとこ行ったらすぐ死ぬぜ?」

冗談じゃない。
思ってもない言葉が口から出て、少し動揺する。
だが空も「今はそんなんじゃないからいいんだって」とか軽く受け流している。
心境とは裏腹に、俺は笑顔のままひょいと防具を担いだ。
……くそ重い。

「よしっ、みんなそろったし、レッツゴー!」

一斉に駆け出す3人。
まだ何も思い出せないまま、俺も後に続こうとする。
時雨が妙に幼い。いや、時雨だけじゃない。空も、椿も。あと、俺も。
絶対に知っている光景。そして、俺は今この4人と一緒にいるはずがない。

「おい、待てよ! 俺、荷物もってんだぞ!」

……そうか、これは夢だな。
俺は勝手に結論付け、彼らの後を追った。
このあと、何が起きるかなんてすっかり忘れて。

—————

いつものルート。
当然のように公園の真ん中を横切っていく。

「あ!」

その汚れた段ボール箱に一番初めに気づいたのは時雨だった。

「見て見て、子犬だ!」
「あら、茶色で小さくて、可愛いわね」

捨て犬だった。
今なら見向きもせず通り過ぎていただろう。
その時は好奇心でそばに近づいた。

「ちょっと伝斗に似てない?」
「何で俺なんだよ」
「なんか、色が黒くないところが。黒かったら空かな」
「それ髪の色素の問題だろ。どちらかというと時雨に似てると思う。小さいし」
「何で小さいと時雨なの!?」

くだらない会話。
そうだ、いつかまではこんな会話をしていたんだ。
いや、今もくだらない話はするけど、そうじゃなくて、もっと……。

「伝斗、どうした?」
「いや? 何にも」

空の顔を見たら、急に全身がこわばる。
なぜ? それを問い詰めると、脳がガンガンと警告音を鳴らした。
やばい、やばいよ。
速くここから逃げ去りたい。
そんな衝動に駆られるのに足は少しも動かない。
時雨は子犬を抱き上げて、ギュッとしては、

「こんなに可愛いのに、何で捨てられちゃったかなぁ」

その言葉に、唐突に心臓が跳ね上がる。
『捨てられた』———。
額を冷たい汗が流れる。
何故だか急に泣きたくなった。
頬がチクッとした。
体中が、冷たくなっていく。頭の奥から、顔の表面まで。
ビリビリする。痺れて、凍りつく。
ぎゅうっと手に持った竹刀を握り締めた。
痛い、痛い。俺は何に対してこんなに怯えているんだ?
……はっきり、くっきりと思い出した。このあと、空が呟くように言ったんだ。

「いらないんだよ、ただ単に」

だから、俺は担いでいた竹刀を思い切り振り下ろした。空の頭めがけて。

—————

『お前は捨てられたんだよ、いらない子だから』
そういわれたような気がして。

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