複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.59 )
日時: 2016/01/24 02:44
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)

頭の奥がつんとした。
鋭くて冷たい何かが、顔を、全身を、覆っていく。
シルフが死んだ。シルフが死んだ!
嗚咽のようなものが込み上げた。
口の中が酸っぱい液で溢れて、その場で膝をつくと全部吐き出す。

”いらないんだよ、ただ単に”

今更何を感傷的になっているのか。
あの時の子犬だって、次の日には死んでいた。
一人で様子を見にきて、バッチリ確認したじゃん。
まるで俺らの仲違いを察したような、ひどく冷たい雨にうたれて。
その憐れな子犬を、「死んだならつまらない」って蹴飛ばしたのは誰だったかな、ねえ?

「ハッ、バカらしい」

脳がスッと冷えて、嫌なくらい冷静になっていく。
そうだ、まずサラマンダーに伝えなきゃ。
面倒だな。
歩きだす頃には、まとわりついていた冷たさがスッキリ馴染んでいた。

ーーーーー

サラマンダーのベッドのわきにはたくさんの本が積み重ねられていた。
何の本か眺めてみたけど、英語英語英語……たまに日本語。
『人間失格』にこれほど親近感を覚えたのは、生まれて初めてだ。
俺は幼い頃からあまり本を読んでいない。

「お前こんな本読むのかよ」
「字が読めるのは貴重だからな。国王軍と同じような知識も得られる」

魔物の識字率が低いのは大体想像がつくが、サラマンダーがこんなに本を読むとは。
それにしても、向こうの世界の名作がここまで進出してるものなのか。

「ああ、その本は拾った。そのあたりの紙屑とかと一緒に落ちてた」

サラマンダーが示した先には、いくつかの紙の束が放ってあった。
一番上のものを取ってパラパラと捲る。
『熱田弥裕』『幸野圭』『八郷佑』『福田龍之介』『カイザー=ヴラフ』……。
何かの名簿かな?
どこか懐かしい手触りの紙だ。
もしや、これって……。

「サラマンダー、これを拾ったのっていつぐらい?」
「いつって、つい最近だ。必要ならもっていけばいい。俺は紙屑には興味がない」

間違いない、これは向こうの世界のものだろう。
しかし、なぜここに?

「あ、そうそう。ねえ、サラマンダー」
「何だ」
「シルフ、死んだよ」

彼はしばらく黙っていた。

「……そうか」
「それだけ? 冷たいね」
「別に」

サラマンダーの言う『紙屑』を握って、部屋を後にする。
もしかしたら、この世界から別の世界へ移動する方法があるかもしれない。
……あったとしても元の世界に帰ろうなんて気持ちは微塵もないけど。
退屈しのぎ程度にはちょうどいい。
まずは、いろいろな情報を集めなきゃ。
俺はノームが普段いると言っていた畑のほうへむかった。