複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.60 )
日時: 2016/01/25 10:37
名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)

 やはり城というものは、入る度に緊張するものだ。
 だってそうでしょ?
 中世の世界とかに出てきそうなお城だし、向こうの世界でも、当たり前だけど入ったことなんてない。
 まぁなんだかんだで、入らないと僕の目的は達成されない。

「あの〜・・・」
「次はペアを組んで組手ッ!その後はランニングだッ!」

 いつものごとく、グレンさんの怒号が鳴り響く。
 ホント、彼がラキのお父さんなんて信じられないよ。

「相変わらず怖いね〜『氷の中将』は」

 近くにいた兵士の一人がそう言って肩を竦める。
 彼も訓練しなくてもいい人なのだろうか。

「こおりのちゅうじょうって?」
「知らないの?戦場ではいつもクールで冷静沈着。適当にどっかの兵士が付けたあだ名が『氷の中将』。今じゃ知らない人はいないよ。本人は知らないっぽいけどね」

 ふぅんと適当に流しつつグレンさんに視線を送る。
 たしかに、怒号とかは酷いけど、戦場では静かだよな〜としみじみ思う。

「彼は戦うことが自分の娘のためになるって考えてるみたいだけど、普通一緒にいてあげた方が彼女のためになるだろうに」
「そういえば、ラキのお母さんは?家にもいないけど」
「あぁ、彼女の母は数年前に・・・

・・・死んだよ」

 当然のように、そう言う。
 そうじゃないかとは思っていたけど、やはりショックは大きかった。

「だからラキちゃんにとっては彼は唯一の家族というわけ」

 意外、ではなかった。
 べつにこれくらいは誰にでも考えられることだしね。
 予想くらいはできていた。

「あの親子はホント、お互いを尊重し合う良い家族だよ」

 そう言って大きく頷く。
 家族、か・・・。

『両親に捨てられたんですって』
『コインロッカーの中で発見されたらしくて・・・』
『可哀そうな子供・・・』

 家族・・・か・・・。
 義理の、血も繋がっていない両親との記憶はいくらでもある。
 しかし、血が繋がった『本当の』両親との記憶は一つだけ。
 捨てられたという事実だけだ。
 まぁ、良い思い出がなかっただけ、単純に一つの事実として受け止めることはできたけど。
 そのせいかな、何かに感情的になることはなくなってしまったような気がする。

「ぐはぁッ・・・ぁ・・・」

 血まみれになった兵士が城内に入ってきたことで、僕は我に返る。
 そうだ、今はグレンさんにラキからの届け物を渡さないといけないんだった。
 それに今こうして兵士がやってきたということは・・・。

「革命軍、か・・・」
「革命軍の小隊が・・・攻めてきましたッ・・・」

 そう言って兵士は絶命する。
 また、守ることができなかった・・・。
 結局は力の無い少年なのかな、僕は・・・。

「そうか・・・」

 グレンさんはそう言うと大きな剣を取り出す。

「ここにいる者は剣を取れッ!守るべき者のために、戦うのだ!」

 彼の言葉で、疲れていた兵士たちも剣を取り、城の中からも兵士が出てくる。
 僕も刀を持ってきていたので、届け物は一度近くに置き、後で渡すことにしようかな。
 しかし、後から僕は思うのだ。
 ここで止めておくべきだったと。

 そうすれば、『ただの力の無い少年』で追われたという事を。
 思い知らされることになる。