複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.62 )
日時: 2016/01/27 16:56
名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)

 眼球だけ動かし敵を把握する。
 急所は外し、できるだけ出血も最小限で抑えられる場所を攻撃する。
 殺さなくても、戦えるんだ。
 僕は背後に現れた兵士の顎を剣の柄で殴り気絶させながら、そう自分に言い聞かせる。
 少しして、僕が相手をしていた兵士は全員倒れた。

「よし、次だ・・・」

 そう思って辺りを見渡した時だった。
 グレンさんが巨人を相手に戦っているのを視認する。
 たしかにあの人は強いけど、やっぱり巨人相手に一人で戦うのも大変だろう。
 殺しはしないけど、戦うことはできるはずだ。
 僕は応援に行こうと一歩踏み出した時だった。
 ダァンッ!
 銃声が鳴り響き、グレンさんの頭から鮮血が吹き出した。

「え・・・」

 僕は立ち止まり、視線を横にずらした。
 そこには、銃を構えた・・・——僕が生かした兵士が、立っていた。

「グレン・・・さ・・・?」

 僕は困惑しながらも、グレンさんに駆け寄る。
 即死だったらしく、すでに彼はこの世にいなかった。

「な・・・んで・・・」

 結局、僕は人を殺すことしかできないのか?
 回り回って、結局何をしても、人は死ぬ。
 僕には、人を殺すことしかできないのか・・・?

「ま・・・待ってくれッ!殺さないでくれッ!」

 ならいっそのこと、全部壊しちゃえばいいんだ。
 ほら、今だって刀を振っただけでグレンさんを殺した兵士は死んじゃった。
 残りの兵士だって、僕が刀を振れば死んじゃった。
 あはは、人を殺すなんて簡単だよね。
 僕がこの刀を振れば人は死ぬ。
 僕が守りたいと思えば人は死ぬ。
 僕が生きてるから人は死ぬ。

「あ、そっか・・・」

 僕が死ねば誰も死ななくて済んだんじゃないか。
 僕がいたから皆死んだ。
 僕が死ネバ、ミンナイキカエルヨネ。

「もう・・・どうでもいいや・・・」

 足元に転がっていた拳銃を拾い、弾が入っていることを確認する。
 あ、この拳銃、真新しいし弾も一発も使われてない。
 僕と違って、まだ人を殺してないのかな。
 僕は自分のこめかみに銃口を突きつけた。
 今更怖がっているのかよ、死ぬことを。
 震えが止まらないや。
 涙が、出るよ。

「ごめんなさい・・・」

 謝っても仕方がないよね。
 謝っても誰ももう生き返らないもんね。
 まだ自分から望んで死ねるだけありがたいと思えよ。
 僕は深呼吸をして空を見上げた。
 今までの人生が、走馬灯のように蘇る。
 あぁ、せめて最後に・・・ラキと、話したかったなぁ・・・。
 僕は静かに、引き金を引いた。
 乾いた音が響き渡った。