複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.63 )
- 日時: 2016/01/28 09:53
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
「何だあいつ……逆に気味が悪い」
ケント……とか言う巨人がつぶやいた。
確かにそれは、ここで過ごしてきた彼らに言わせると異様な光景だったのだろう。
空のまわりには人が転がっていた。
その人は皆死んでいない。気絶しているだけなのだ。
「今度は何考えてんだよ、国王軍のヤツら……! 俺たちをなんだと思ってんだ!
なあ、坊主!」
「えっ、あっ、そうだな、シュリーさん」
俺は——勝手な思い込みだが——少しその理由がわかっていた。
ここに倒れている人はきっと全部空がやった。彼に前ほどの実力があったなら間違いない。
そうだとしたら理由は一つ。彼が人を殺せなくなったから。
何故……と問われると、そこまではわからないが。
「また昔の実験とか何とかに使う気か……?」
「実験?」
「……小僧、お前何も知らないんだな……道理であんなリーダー様と一緒にいられるわけだ」
「まあまあ、坊主は若いんだからさ」
そろそろ『坊主』とか『小僧』とか呼ぶのやめて欲しいんだけどな。
って言うか俺はいつまでもここにいていいのかな? みんな戦ってるよ。
「俺はもう少しここで様子を見る。殺されるのも嫌だし実験に使われるのもごめんだ」
「坊主いってこいよ、俺はここにいるから」
いいのか、この二人。言うことはわからなくないけど。
俺は薙刀を持って戦場に出ようとすると、ケントが小さな声で言った。
「おい、小僧。そういう長い武器はできるだけ遠くから使え。
お前は国王軍に比べて手足が長いから、ちょっと遠くても十分戦える」
「ん、ありがとう」
思ったよりいい二人なのかもしれない。
空の姿を探して戦場の真ん中のほうへ向かう。
思ったとおり、気絶していた人が多いのは空が通った場所だけだ。
“伝斗! 死ぬな! 目を覚ませ、伝斗!”
……あれ? 絶対どこかで空に言われた台詞だけど、いつ言われたんだ?
この世界に来てからじゃないと思うけど……もっと昔……?
ま、いっか。今思い出さなくても。
「小僧、後ろ!」
「えっ」
ケントさんがすごい速さで俺の後ろへ駆け抜けた。
鈍くて大きな音が響いた。
後ろに立っていたのは、赤髪の大男。
とたんに全身の血が沸き立った。
この男、憎い! 憎い!
突っかかろうとする俺を、ケントの声が止めた。
「離れろ! 感情的になるな! 俺の言ったことを忘れたのか!」
そうだ、俺は俺のできることをしないと。
思い切り間合いを取る。
そのとき、ケントの体から赤いものが散った。
「ケントさっ」
「ケント!」
反応したのは、シュリー。
ケントに向かって発砲した兵士を殴り倒し、銃を奪って迷わずに打ち抜いた。
銃声が耳を劈く。
赤い髪の大男が倒れた。
命懸けってこういうことなのだと、今更思い知る。
俺はあの覚悟を持って戦っていたっけ?
「シュリー!」
次はケントの声だ。
視界の隅で大きな体が倒れた。巨木が切り倒されるように。
切ったのは——白髪の少年。
「そッ」
「小僧! 逃げろ! コイツ、普通じゃねぇぞ!」
「でも!」
「殺されたいなら勝手にしろ!」
ケントはシュリーをしょって逃げた。
たぶん彼らは助からないことを知っている。
それでも助けるのは、友情。
“伝斗! 死ぬな!”
いつか俺がその友情に救われたとしたら。
空は銃を手に取った。
俺は空めがけて飛んだ。
“ちょっと遠くても十分戦える”
俺なら、できる。
腕を伸ばした。
もう少し。あと少し。
届かせる、届かせてみせる。
乾いた音が響き渡った。