複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.65 )
- 日時: 2016/01/30 11:33
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
空は、とても怖い目をしていた。
何が起きたか、自分が何をしたか、よくわからなかった。
ただ、突き飛ばされた痛みでなんとなく感覚が正常になったような気がする。
……もしかしたら逆におかしくなったかもしれないけど。
俺を突き飛ばした空は、冷え切った目でこちらを見ていた。
「うるせぇよ……」
俺はこの目を知っていた。
かつての誰かさんも同じ目をしていた。
怖い、怖い。
何もかもが自分だけを置いて壊れていく感覚。
ケントの返り血を浴びた空は——綺麗だと思ったりもした。
ダメだ、やっぱり自分もちょっとずつおかしくなっちゃってる。
「そ……ら……?」
“お母さんはもう帰ってこないんだよ”
大きく息を吸い込む。
空がゆっくりとこちらを見た。
同じ目。言いかえるなら、疲れた目。
「お……まえ……なんで……」
近寄って、手を差し伸べることは容易い。
でも。
“手遅れだったんだよ。気づいたときにはもう救えなかっただけさ”
そうだ、もう何を言っても遅いんだ。
空は、手遅れ。もう救えない。
「伝斗……僕から……逃げて」
捨て犬が惨めにならないためには、捨てられる前に逃げること。
安全地帯は自分で探さなきゃ……自分が死んじゃうよ?
これは、俺が短く長い15年間の人生で築き上げた幸福理論。
なぜか今は……この論を真っ向否定したい。
「は? お前、何言って……」
「ごめん……でも、逃げて……お願いだから……」
逃げるってことは、空を捨てるってこと。
空を捨てるってことは……俺が死ぬってこと? あれ?
なんかいろいろこんがらがってきたぞ。
「理由がないのに逃げるなんて……」
何で俺は『逃げる=死ぬ』なんて考えているんだ? 普通逆だろ。
そこまで考えたとき、向こうから銃声が聞こえた。
頭上を銃弾が掠める。
国王軍か。
彼らなら空を止められるかもしれない……たぶん無理だけど。
彼の目は……母さんと同じ目をしている。
“もう救えなかったんだ。お前のせいでね”
黙れ。お前のせいだろ、父さん。
歩き出したら、タイミングを見計らっていたように雨が降り出した。
そのとき、一つだけ思い当たった。
俺の母さんは『逃げる』ために俺を『捨てて』『死んだ』んだ。
だから、『逃げる=捨てる=死ぬ』とか言うわけのわからない理論が成立するのか。
あの日、俺の母さんは死んだ。