複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.67 )
- 日時: 2016/02/05 14:02
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
まだ頭がぼーっとしている。
二度三度瞬きをして、ゆっくりと扉を開けた。
「サラマンダー……」
「どうした、伝斗。顔色が悪い」
よろめきながら、サラマンダーの横に腰を下ろす。
サラマンダーが何か言ったような気がするが、聞こえない。
ああ、初めから全部夢だったらいいのに。
「ねえ、サラマンダー。お前って嫌われ者だよな」
「何がいいたい?」
「シルフってさ、何で仲がいいの?」
サラマンダーは不満そうな顔をした。
嫌われ者って言うのがどうも癪に障ったらしい。
何を今更。
「シルフは、もともと托卵された子だった」
「タクラン?」
「カッコウとかがよその鳥の巣に卵を産んで、もとある子と摩り替えられ、そこで育てられること。
ハーピーの中にもそういう種族がいる。シルフは幼い頃、托卵された。
シルフだけ少し容姿に違いがあるから、兄弟虐めにあったらしい」
托卵ねぇ。
人間だったら想像できないな……。いや、そうでもないか?
ある意味、少し前の俺も托卵みたいなものだったし。
「家出してきて倒れているところを、俺が拾った」
「そういえばお前さ、まえ混血とか何とかって言ってたけどさ、詳しいところどうなのよ」
今度は不満を越えて明らかに嫌そうな顔をした。
「お前は遠慮というものを知らないのか」
「うん、よく言われる」
「俺は父親がドラゴン、母親が人間! 俺自体はれっきとしたドラゴン!」
「嘘つけ! お前見た目人間じゃねぇか」
「でも父親はドラゴンだ! ついこの前お前が刀を突っ込んだあの袋の中の骨を見ただろう!」
あ、あれドラゴンの頭蓋骨なんだ。納得。
しかしあれを大事にとってあるってことは……。
「……サラマンダー、趣味悪いな」
「失礼な、俺の宝物だ」
「気持悪い。新手の宗教かよ」
「宗教とは何だ。あれが俺の心の支えなのに」
「そういうところが宗教なんだよ」
閑話休題。
「でも確かに、お前ってリーダーの割りに慕ってくるやつ少ないもんなー!
この世界に飛んできていきなり革命軍はいって、なぜ突然リーダーの右腕扱いなんだとか思ったけど、
いやぁ、納得納得」
「そうだな、お前も始めてここに来たときに殺そうと思ってたんだよ、最初はな」
俺の額に冷や汗が流れる。
何、こいつ、爆弾発言。
何で俺を殺そうとしたとか言っちゃってんの。
「だって人間だって言ったから当然国王軍のヤツかと。寝たのを見計らって殺そうと思ってた」
「マジかよ」
「でもまあ、そのあと急に攻め込まれたから、あ、あと寝言で言ってたことも気になるし、
別に一緒に戦ってもいいかなと」
「軽いね! てか俺 寝言いわねーし!」
「言った、呻くような声で
『生きて後悔するくらいなら、死んだほうがましなんだよ!』……と」
……重い。とても重い。
サラマンダーが怖いくらい真顔になっている。
よし、これ以上このはなしを掘り下げるのはやめよう。
“黙れ! 生きて後悔するくらいなら、死んだほうがよっぽどましだ!
母さんのところに行くんだよ! 邪魔すんな!”
少年はカッターを手首にあて……
「わーっ!」
「どうした、伝斗。驚かせるな」
「ご、ごめん。いや、驚いてないだろ」
夢だ、悪夢だ。あれは全部過去の出来事!
今にも破裂しそうな心臓を押さえつけ、大きく息をつく。
落ち着け、落ち着け。少し気が動転してるだけ。
ああ、少しずつ自分が狂ってきてる。否、狂っていたときに戻ってきている。
ここは、ダメだ。もとの、空たちがいた頃に戻らないと。自分が壊れる!
脳内に一筋の光が差し込んだ。
「サラマンダー、……できるか?」
「お前はアホか」
「ですよね」
サラマンダーはあきれたように吐き捨てた。
まだ、俺はこの異様な日常に溶け込もうとしている。
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「へえ……あの人間、なかなか面白いこと考えるじゃん」
少女の姿をしたそれは、ニッと口元を歪めた。