複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.68 )
日時: 2016/02/05 16:29
名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)

 なんで、今更伝斗と出会った日のことを思い出したのか。
 僕には分からない。いや、本当は分かっているんだ。
 あの頃は僕は色々な人に必要とされていた。
 生きる意味が、そこら中に転がっていた。
 でも、この世界に来てからは、それが通用しなくなっていく。
 生きる意味が、他人の血で汚れていく。
 それに耐えられなくなって・・・。
 だから、まだ僕が汚れていなかった頃の夢を見たかったんだ。
 そうしないと、壊れてしまいそうだったから。

 それに、もう一つ、あの頃にあって、今にないものがある。
 伝斗への、信頼。
 あの頃は、正確にはあの頃より少し後くらい、伝斗たちと仲良くするようになってから、僕は彼等を信頼していた。
 親友だと思っていた。でも、少なくとも伝斗は違った。
 彼は突発的に、僕を殴った。理由もなく殴ったのだ。
 彼にとって、僕はただの勉強を教えてくれる知り合いの一人でしかなかったんだと思えば、それも当然だった。
こちらの世界に来てから謝ってくれたけど、今でも許していない。
 それに、伝斗が僕を嫌う理由を探せば、色々見つけられる。
 でも、一番はあれかな。
 僕と、比較対象にさせられる現実。
 皆、毎日の様に僕に言うのだ。
「どうして伝斗君と仲良くするの?」「空君って伝斗君とは大違いだよね」って。
 僕はまだ良いさ。褒められる立場だもの。
 でも、伝斗はどうだろうか。友達と比べられるんだよ?
 何度か彼が怒られている現場に出くわしたことがある。
 僕は聴こえていないフリをして通り過ぎるのだが、毎回のように先生は彼に言うのだ。
「なんで君は空君のようになれないんだ」「もっと空君を見習いなさい」
 やめろよ。やめてくれ。
 僕だけじゃない。椿だって、優等生だ。
 椿が対象にされたことだってあっただろう。
 それに、時雨が対象になったことだってあったかもしれない。
 時雨だって、伝斗に比べれば根は素直だし、元気で、意外と彼女を好いている者も少なくはない。
 じゃあ、そんな僕たちと仲良くしているひねくれ者で不良の伝斗はどうなるか。
 言うまでもないだろう?
 だから、彼が僕のことを友達と思っているわけがない。
 彼にとって、僕は足手まといでしかないんだから。
 いつも比べられて、良い気がするわけない。
 でも、今気にするべきはそこではない。
−−−
「生きて・・・る・・・?」

 いつの間にか強くなっていた雨が僕の頬を打つ。
 雫が頬に当たる感覚が、僕が生きているという事実を認識させる。
 なんだよ、なんなんだよこれは。
 胸を突き刺して、普通生きているものなのかよ。

「いやいや、普通は死んでいるはずだよ」

 聞き覚えがある声に、僕は声がした方に振り返る。
 そこには、僕の刀を持った福田さんの姿があった。

「貴方は・・・」
「おはよう。自殺志願者の少年君」

 余計なお世話だよ、全く。
 僕は少し考えてから言葉を吐き出す。

「もしかして、貴方が僕を生かしたんですか?」
「まさか。僕は医者じゃないし」

 そう言うと腰かけていた岩から立ち上がり、僕の胸を指差す。
 そこは、なぜか淡い緑色の光を帯びていた。
 僕は身に覚えがあり、少女が僕にくれたネックレスを取り出す。
 案の定、光っていたのはそれだった。

「魔法石の一種だね。魔力を詰め込んで、紐が切れた時にその魔力を解放するって言う」

 多分、僕が自分の胸を刺した時、何かの拍子で紐が切れたんだろう。
 彼女は回復魔法が得意だって言ってたからね。
 それを込めたんだろう。でも・・・。

「くそう・・・」

 僕は首の部分から紐を引きちぎり、草むらに向かって投げ捨てた。

「自分の命を助けてくれた物に、乱暴すぎるんじゃないかい?」
「うるさいッ!僕はもう死にたいんだよッ!死なないと・・・いけないんだよッ・・・」

 声を荒げてしまう。
 僕の気持ちも知らないくせに、偉そうに語るなよ。

「あはは、怖い怖い。でもさ、そんなものを作ったっていうことは作った人は君に生きてほしいんじゃないかな?」

 その言葉を聞いて、僕は耳を疑った。
 僕に、生きてほしいだって?

「そうさ。それに、君のお友達だって、君が自分の頭撃とうとしたら止めただろう?君に生きてほしい人はたくさんいると思うよ」
「でも・・・僕は・・・」

『生まれても誰にも喜ばれなかったゴミが、人間に逆らうんじゃねぇよ』

 幼少期の記憶がフラッシュバックする。
 そうだ、僕なんか、生まれてこなかったほうが・・・・・・。

「君は、自分の存在を過小評価しすぎだと思うよ」

 そう言うと、僕に刀を渡してくる。

「しばらく考えてみたらどうかな。自分の存在価値を」

 そう言って、立ち去って行く。
 残されたのは、刀を持ったまま立ち尽くす少年だけだった。