複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.69 )
- 日時: 2016/02/15 13:32
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
まるで生きている心地がしない。
『夢だったら』なんて言葉がグルグルと頭をめぐる。
自分が少しずつ異常になってきたような、あるいは、これが本当に正常な思考なのか。
わからない。
「そもそも俺、向こうの世界でも変なヤツ扱いされてたしな〜」
先ほどの戦闘からそんなに時間もたってない。
サラマンダーと話したら、急に脳がスッと冷えてきて、嫌なくらい落ち着いた。
いつまでもボーっとしているわけにもいかないし、死体処理を少しずつ進めている。
死体を分けて、家族がいる場合は家族に知らせを出す。
場合によっては死体を引き渡す。
いなかったら適当に燃やして処分。
だいぶこの作業も板についてきた。血にも死体にも慣れた。
喜んでいいことなのかどうかはさておき。
次の死体は、見覚えのある大きな体をしていた。
ケントだ。
気づかなかったが、巨人のくせに意外と細くて、脆そう。
・・・・・・
ぐっと引き上げると、彼は眼を覚ました。
俺の思考が停止する。
「あ、おはよー……って、うわあああっ!? 生きてる!?」
「ん……あ、小僧。無事だったか」
「こっちの台詞だよ! 死んだんじゃねぇのかよ」
「回復魔法ってのは、少しでも使えると有利だな。やっぱ。
小僧も使えるのか、そういう魔法」
俺は首を横に振る。
使えるわけないでしょ。俺人間だよ。
魔法使いじゃないんだから。
「そうか、一つ憶えておくと便利だぞ」
だから無理だって。
ケントは体についた砂を払って立ち上がる。
ちなみにシュリーのほうも簡単に処置をしたのでおそらく生きているのでは、と言うことだった。
それにしても意外だ。この大男に回復魔法が使えるとは。
「革命軍は国王軍より断然回復系統の魔法を使える者が少ないからな。
というか、そもそも魔法と呼べるものを扱う者が少ない」
「国王軍って人間ですよね、魔法使えるんすか?」
「あいつら学問は一流に発達しているからな。
魔法使えない人間なんて雑魚ぐらいだろう。雑魚以下だな」
もしも〜し、目の前に魔法使えない人間いるんだけど。
ええっ、俺って雑魚なのか。地味にショック。
魔法って勉強すれば使えるようになるものなのか。
「文字が読めれば魔導書とか読めるだろうな。
俺は読めないから独学だ。たぶん普通の回復魔法とはまったく別物だろうな」
字が読めないのに独学って、地味に自慢だよね。ね?
実はこの人、俺が魔法使えないってわかってこの話してるんじゃないか。
だったら相当性悪だ。字も読めないくせに。
「字が読めるのに何で革命軍なんかにいるんだ、小僧。
人間だろ」
「いいじゃん、別に。
字なら少し教えるけど」
ケントがばっとこちらを向いた。
信じられないと言うようにこちらを見つめている。
「……正気か? 俺は巨人だぞ? 小僧は人間だぞ?」
ケントは俺をなんだと思ってるんだ?
確かに教えるのは下手くそだけど。
「代わりに魔法とかこの世界のこととか教えてくれよ。
俺まだ知識あんまりないんだよね」
「おぅ……それでいいなら、別に……」
腑に落ちない顔をするケント。
いや、何がダメなのか俺にはさっぱりわからないけど。
「そうそう、最近何か変なアレがあるから気をつけろよ」
「アレ?」
「気づいてなさそうだから言っとくけど、ちょっと気味の悪いことがあるんだ。
ここにあるしたいにもいくつかあるだろ。例えば、これ」
ケントは手近にある一つの死体を示した。
男の小人だ。だいぶ前の死体で、胸を大きなもので貫かれたのが直接の死因のようだ。
「手の指がすべてないだろう」
「戦いで失ったんじゃ?」
「でも綺麗に根元から切り落とされている。しかも全部。
あまりにも奇妙だ。
こういう死体をたまに見かけるんだよ、最近になってな。
気味が悪いから気をつけろよ」
そんな気にするものなのだろうか。
まあいっか、一応記憶に留めておこう。
何かのヒントにもなるかもしれないし。
「俺はシュリーを訪ねてくる。お前は?」
「じゃあついて行っていいすか」
「かまわん。あとその敬語なのか何なのか中途半端なしゃべり方やめろ」
「あ、はーい」
中途半端か。敬語のつもりと言えばそのつもりだったんだけど。
ついていく途中、死体の山の中にケントの言った気味の悪い死体がいくつかあった。
腕がないもの、足がないもの……みんな胸を刺されて死んでるみたいだけど。
他に今まで見たことあったかな、こんな死体。
妙な引っ掛かりを感じたけど、思い出せないものはしょうがないか。
歩幅の大きなケントの影を踏むようにして、俺は歩き出した。