複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.70 )
日時: 2016/02/14 01:12
名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)

「・・・・・・ただいま」

 頭の中がごちゃごちゃしたまま、僕は家に帰った。
 結局、僕はどうすればいいのか分からない。

「あ、ソラ君!おかえりなさい!」

 僕を待っていたのは、エプロン姿で晩ご飯の準備をする可愛らしい天使の姿だった。
 僕の中の精神ゲージが0から一気に満タンになっていく。
 彼女は天使の生まれ変わりに違いない。
 もしくは本物の天使か?

「そういえばね、ソラ君。今日はお父さんも、3人でご飯を食べるんだよ」

 どくん、と。自分の心臓の音が聴こえた。
 だって、グレンさんは、もう・・・・・・。

「あれ、どうかしたの?」

 黙ってしまった僕に、彼女は首を傾げる。
 言わないと、今言わないと、僕は後悔する。

「ラキ・・・グレンさんは、もう、帰って来ないんだよ・・・・・・」
「・・・・・・え?」

 彼女は目を見開く。
 ここで止めるな、言い切れ!

「グレンさんは・・・死んだんだよ・・・・・・」

 ガシャンッ!
 目の前から音がしたので顔を上げると、ラキが今日の晩御飯であろう、シチューの皿を落とし目に涙を浮かべ、震えていた。

「お父さんが・・・死・・・・・・」

 彼女はその場にへたり込み、カタカタと震える。
 僕は咄嗟に駆け寄る。

「ラキ、しっかりして・・・・・・」
「・・・・・・ろす・・・・・・」

 彼女の口から、微かに言葉が聴こえる。
 僕の見開く。
 やめろ、その言葉は・・・・・・。

「こ・・・・・・ころ・・・・・・ッ!?」

 僕は咄嗟に、抱きしめた。
 彼女の華奢な体を、強く、ギュッと。

「そら・・・くん・・・?」

 ラキは僕の胸の中から、顔を上げる。
 僕は笑いかけた。

「君の口から、その言葉は聴きたくない・・・それに・・・」

 僕は少しだけ距離をとらせ、彼女の涙を拭う。
 彼女は目に涙を浮かべたまま僕の目を見る。
 次の言葉を言いきってしまったら、もう戻れない。
 でも、彼女のためなら・・・・・・———

「殺すのは、僕の仕事だ」

 ————悪にだって、なれる。
たとえ血で汚れても、君のためなら。

「ッ・・・・・・ソラ君ッ・・・・・・」

 彼女も僕を抱きしめた。細い腕で強く。

「殺して・・・・・・」

「お父さんを殺した人たちを・・・・・・殺してッ・・・・・・」

 その日、僕の中で何かが吹っ切れた。
 僕の存在が、悪でも良い。
 許されなくても良い。
 僕を必要としてくれる人がいるのなら。
 その為なら、僕は人を殺してでも、生きてみせる。
 それで、君が喜んでくれるなら。
 君と、一緒にいたいから。
 僕は彼女の顎を持ち、僕を見上げさせ、そして・・・———「んッ」———。
 一瞬の繋ぎ目。
 本当はもっと繋がっていたいけど、それは我慢。

「もう少し、こうしててもいい?」
「あぁ、いいよ」
「ソラ君、あったかいね・・・・・・」

 しばらくして、彼女は安心したのか寝てしまったので、抱き上げてベッドに運ぶ。
 彼女の部屋のベッドに寝かせて、掛布団をかけてやる。
 僕は起こさないように立ち上がり、部屋を出る。
 とりあえず、彼女が落としてしまったシチューの始末をしないといけない。
 僕はそう思って一階に下りようとした時だった。
 なぜか脳裏に、グレンさんが死んだ時の情景が思い浮かぶ。
 なんで今更、と思ったが、そこでとある疑問が浮かぶ。

 ・・・・・・本当に、グレンさんを殺したのはあの兵士なのか?
 違う、そうじゃない。僕がそう思いたかっただけだ。
 記憶が、正しく修正されていく。
 そして、カチリ、と。ピースが全てはまる。
 そこには、一人の少年の顔が浮かび上がった。
 僕はその顔を思い出し、戦慄する。
 そう、それは数少ない親友の・・・・・・————。

「・・・・・・伝斗?」