複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.72 )
- 日時: 2016/02/15 16:39
- 名前: 凜太郎 (ID: 6kBwDVDs)
『あはは、待て〜』『いっくよ〜』
僕と同い年くらいの少年達が、ボールを追いかけて走り回っている。
勉強以外にとりえのない僕は、こうしてみんなが遊んでいるのを見ているだけ。
その時、コロコロとボールが足元に転がってきた。
僕はそれを拾う。
『悪い悪い』
その時、少年が僕に話しかけてきた。
僕は彼にボールを渡す。
彼はボールを受け取ると、首を傾げた。
『ねぇ、君はみんなと一緒に遊ばないの?』
−−−
いつからだろう、着替えがちゃんとたたまれて用意されているのが当たり前になったのは。
いつからだろう、朝木刀を振るのが当たり前になったのは。
馴れは恐ろしい、だなんて聞いたことあるけど、まさにその通りだ。
だって、この世界にきてほんの数日で、僕の存在がこの世界に溶け込んでいるのだから。
「おはよう。ラキ」
「おはよ、ソラ君」
僕は席につき、彼女が作った美味しい朝ごはんを食べる。
うむ、相変わらず美味しい。
多分これから、彼女が作った料理よりも美味しいものに出会える気がしない。
・・・・・・さて、現実逃避の時間はここまでだ。
「本当に、伝斗が殺したのか、か・・・・・・」
「ん?何か言った?」
僕の独り言に、彼女は反応してしまった。
僕はなんでもないよ、と笑ってみせる。
さて、これからどうしたものか・・・・・・。
本当に伝斗がグレンさんを殺したというのならば、僕は彼を殺さないといけない。
狂ってるって?異常だって?関係ないね。
誰かが言った。愛故にすることは美徳だ、と。
少し違ったかな?まぁ、つまりはそういうことだ。
僕にとって、今ではラキが世界の中心だ。
伝斗かラキ、どちらが大事なのか聞かれたら、即答でラキだと答えられる。
とはいえ、僕だって自分から進んで友人を殺したいわけではない。
とりあえず、直接聞いてみてから決めようかな。
そんなこんなで朝食を食べ終わる。
ちなみに今日は昨日のシチューとパン。それからベーコンとサラダという、いつもより少しだけ豪華なメニューだった。
さて、朝食を食べ終わった後はいよいよお待ちかねの時間、魔法の特訓タイムだ。
実は、この世界に来てから独学、魔法書を読み漁る、ラキに教えてもらうなどして密かに魔法の特訓を重ねていたのだ。
主に回復魔法の練習というとても地味な作業だったので、今までは特筆してこなかった。
さて、初級中級と今まででマスターしており、本日はいよいよ上級をマスターすることになった。
そんなこんなで、目の前にはこの家に住みついていたというネズミのチュー太(ラキ命名)がいる。
「これをどうするんだっけ・・・?」
「ですから、チュー太を殺して、命が尽きる寸前で回復させて生き返らせるんですよ」
当然のように言ってるけど結構怖いよねそれ!?
聞いた話では、ラキは上級をマスターする際に二桁のネズミをあの世に葬ったという。
いやね?上級をマスターするために動物を使うこともそれにはネズミが一番適任だということも笑顔で何度も語ってくれたけどね?
やっぱりなんかこう・・・道徳的なものがあるじゃん?
「じゃあやるよ?いい?」
「ぅん・・・いいよ、大丈夫・・・」
あぁ、ついに殺るのか・・・。
彼女は可愛らしい笑顔と「えいッ」というこれまた可愛らしい掛け声と共に、チュー太にナイフを突き立てた。
吹き出す血。さぁ、ここからは時間との勝負だ。
僕はチュー太の上で両手を広げた。
そして目を閉じて両手に魔力を集中させる。
初級ではちょっとした浅い傷、中級では基本的な怪我、病気全般を治せるほどの魔力が備わった。
上級では、死にかけた命を救う、死者蘇生にも近い何かをする。
だんだん、傷が塞がっていく。流れ出した血や、体細胞などが傷の中に戻っていく。
あぁ、僕が死んだ時もこんな感じだったのかな、としみじみ思う。
そんな場合じゃないだろ、とツッコまれるかもしれないが、ネズミの死体が修正されていくのをただ見ているのは、なんかこう・・・よく分からないけど不快な何かが湧き上がってくるのだ。
まぁ、結果だけ述べるのなら、チュー太は無事に生き返り、何食わぬ顔で静かに巣に戻って行きましたとさ、めでたしめでたし。
「はぁぁ・・・疲れたぁ・・・・・・」
「お疲れ。良かったね!これで、上級の回復魔法も使えるよ!」
「ホントに疲れたよ!なんなんだよあの特訓ッ!」
つい声を荒げてしまう。
だってさぁッ!ネズミにナイフ突き立ててそれを治すって!ただでさえ汚いネズミを血まみれにして数分見続けるなんて、地獄だ。生き地獄だ。
「まぁまぁ・・・何かを手に入れるためには犠牲も必要なんですよ」
「それは分かってるけどさぁ・・・・・・」
ハァ、と溜め息をつく。
まぁでも、上級もマスターできて良かった良かった。犠牲になったものは大きいけどね。
「それじゃあ次は風魔法とかが簡単だけど・・・・・・」
「中将ッ!」
その時、国王軍の兵士が玄関の扉を開けて入ってくる。
そうそう、余談だが、最近僕は中将になりました。
理由がグレンさんが死んで、跡継ぎは僕以外ありえないだろうという多数決。
その時に僕が意思表示をした回数、1。
無論、それすらも無視されてしまった。
「・・・・・・なに?」
「国王がお呼びですッ!」
「分かった。すぐ行くから、もう戻ってもいいよ」
「はッ!分かりましたッ!」
年上の大人が僕に敬語を使うのも変な気がしたが、まぁ気にしないでおこう。
僕はラキに笑顔で行ってきますを言い、家を出た。
まぁ、これが・・・僕のこの世界での一日です。