複雑・ファジー小説

Re: スピリットワールド【合作】 ( No.75 )
日時: 2016/02/18 02:09
名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)

あまりに早い展開で、何がなんだかわからなかった。
ただ、グレンさんが眼を開いたまま動かなくなって、たぶん、その女の子が殺したんだろう。
長い黒髪、青い瞳、白い肌。
間違いなく美少女なんだけど、纏うオーラは禍々しい。
彼女は少しグレンさんを物色してから、その顔に手を伸ばした。

「ッ……!」

悲鳴を上げたいぐらいだが、下手に騒ぎになって自分が殺されるのもごめんだ。
やっとのことで理性をつなぎとめる。
その間にも少女は慣れた手つきでグレンさんの目玉を丁寧に抉り抜いていった。
何をする気だ……?

「うん、すっごく綺麗な赤。
ちょうどこの目が欲しかったんだよね〜。
僕血のような赤大好き〜」

雑誌で欲しいものを見つけた女子高生のような言い方。
その目玉を置くと、少女は自分の頬に右手を当てた。
そして、左手で自身の眼球を取り出し始める。
もう、何もいえない。悲鳴とかそういうレベルじゃない。
何だろう。衝撃映像過ぎて感想を言葉で言い表せない。
彼女は自身の眼を投げ捨てると、先ほど取ったグレンさんの目を拾い上げ、埋め込んだ。
まるで、コンタクトレンズでもつけるかのように。
それを、もう片方の目も同様に行う。

「できたー! とってもいい感じ。
ね? そう思わない、人間君」
「……俺?」
「そう、俺」

彼女は俺を見てにっこり笑った。
その瞳が、赤い。
グレンと同じ色……いや、そのままグレンの目をつけたのだ。
美しいその顔が、さらに禍々しさを増す。

「可愛いでしょ? でも僕男なんだよねー」
「男? 嘘だろ」
「本当本当。僕、元男。この体は女だけどね」

……ニューハーフ、ってことだろうか。
違う感じだから黙っておこう。
それより疑問なことがいっぱいあるのに。

「な、何で眼球取れたんだ? 痛くないのか?」
「君はフランケンシュタインって聞いたことある?
死体を寄せ集めてつくった『死者蘇生の失敗作』みたいなもの……だっけ?
あはは、僕が忘れちゃった。
とりあえず、僕の体はすべて死体でできているってこと。
体のパーツによって違う死体だから当然痛くもないし、胸貫通したくらいじゃ死なないよ。
あ、ほら。僕にとって肉体は君たちで言う服みたいなものなんだよ。
眼球も同じ感じかな」

なるほど、言われてみると華奢な体にしては割りとたくましい腕をしているし、
その腕に対して指は短い。
アンバランスって言うか。
……あ。

「じゃあ、その体も顔も全部他人のものだった、ってこと」
「ぴんぽんぴんぽ〜ん。
かわいいでしょ? 僕の顔。僕が選んだだけあるよねぇ」
「選んだ、って。それって、死に際の子から取ったってことか?」
「違うよ」

その答えに、俺は一瞬だけ安心した。
彼女……いや、彼というべきか……は笑ったまま続けた。

「普通に殺したに決まってるじゃん。そのまま生きてるうちに顔に傷がついたら残念だし。
それに死体は死にたてのピチピチで新鮮なヤツがいいもん」

ガツンと頭を殴られたような感覚。
殺した? 自分の顔にしたいがために?
そんなの、だって……。

「信じられないみたいな顔してるよ?」
「当たり前だろ」
「当たり前? 面白いこと言うねぇ。
当たり前って言うのは、誰かが死んでしまうこと。死に方に常識なんてないじゃない。
自分が殺される恐怖に怯えて逃げかくれながら過ごすか、他人を殺して自分の人生を存分に楽しむかなら、
僕は断然後者だね」

楽しむために、殺す。幸せになるために、殺す……。
紙にインクが染み込むように、脳の奥の奥までその言葉は融けていった。
全身が凍り覆われる、あの感覚にのまれる。
そうだ。そうだろ。
世の中の幸せの量は決まっている。自分が幸せになりたいなら、幸せな人から奪い取らなきゃ。
ねえ、母さん。

「……お前は不死身か?」
「不死身? その言い方には語弊があるかな。僕はもう死んでるんだよ」
「とにかく、死んだような状態になることはないと捉えていいのかな」
「首を刎ねても脚がもげてもってこと? なら答えはイエスだね」

軍に縛り付けるようなことはしないほうがよさそうだ。
自由にさせたほうが、存分に動いてくれるかもしれない。
……こいつ、使える。

「……俺、もしかしたらお前に頼みたいことができるかもしれない」
「奇遇だね。僕も似たようなこと考えてた。
僕はライヒェ。君は……伝斗だっけ? 魔物の中でも君とリーダーは有名人だからね」
「ふーん。知らなかった」

ここに来てだいぶたった。そろそろ町を歩くのも苦労するかもしれない。
ライヒェは、限りなく人間に近い容姿をしている上に、体の入れ替えができなくもない。
なおかつ、不死身。
シルフも亡くなった今、偵察役にはもってこいの人材だ。

「さて、僕あんまり長居してると君以外の人に見つかったら厄介なんだよね。
僕が君を捜して会いにいくけど、いつがいい?」
「俺が一人で暇してるときなら声かけてオッケーってことで」

洞窟の外に出、ライヒェは木の上を飛ぶように帰っていった。
その背中には、白い翼がついている。
偵察に行くときアレは邪魔だな。取ってもらわなくちゃ。

……でも、その前にやるべきことはたくさんある。

—————

拳が宙を切る音。
ノームの鋭い突きが俺の頬をかすめる。

「おーい、サラマンダーも参加しろってー」
「俺までお前の相手したらさすがに疲れるぞ」
「いいってー。ノームも疲れてきてるしー」

対人戦をしながら、だいぶ周りが見えるようになったと思う。
油断大敵とはいうけれど、数が多いときは周りからの攻撃をよけるほうが大事だと思う。
いつかの空みたいに相手がフェイントしてきたときの逃げ道も確保したいし。

始めて人を殺してから、それほど日はたっていない。
できるだけの時間を確保してもらって、ケントやシュリー、ノームや他にもいろんな人に練習相手になってもらっている。
牛男は正直戦ったことのない相手で怖かった。
俺が戦うのは国王軍なのにあいつと戦った意味はあったのだろうか。うーむ。
何はともあれ、だいぶ実力はついた。

ライヒェは一度あって以来姿を見ていない。
まあ別に今すぐ必要ってわけでもないしね。

噂によると空は生きてるみたいだし。
それも考えるとやっぱり自分の身は自分で守らなきゃなって思う。
空も頑張ってるんだから。
ただし、もし俺の考えてる通りにことがうまく運んだとしたら……。



……死ね、晴太空。