複雑・ファジー小説
- Re: スピリットワールド【合作】 ( No.77 )
- 日時: 2016/02/20 00:09
- 名前: 雅 ◆zeLg4BMHgs (ID: F5aTYa7o)
「また国王軍が攻めてきたらしい」
シュリーの言葉に、ケントがため息をついた。
たった今、俺とシュリーとケント、加えてノームも一緒に話をしていた。
もちろん、戦う練習の合間に。
サラマンダーは悪い噂がたっているのを知ってか、休憩中はこちらに来ない。
一緒に話してみてわかることってのもあると思うんだけど。
「よっしゃ。俺の腕の見せ所だな! 北の拠点に向かってきてるらしいぜ」
「シュリー、お前はもっと落ち着いて行動しろ」
「リーダー、行きましょう。あと15分ほどで国王軍が拠点に着くと思います」
「おう、伝斗、行くぞ」
次々と腰を上げ、拠点に向かっていく。
「……ちょっと待って。シュリー、拠点に行こうとしてる人たちをみんな今から言うところに呼んでくれないかな」
「は? 拠点は?」
「みんなで守ってもどうせ潰されるんでしょ。なら全然違うところを攻めればいいじゃん」
全員が黙り込んだ。
ケントは怪訝そうな顔でこちらを見ているし、
シュリーにいたっては俺の言ったことがまったく理解できていないらしい。
「シュリーはみんなに呼びかけてほしい。
『派手に城に攻め込め!』ってね」
ケントとノームはどう攻め込んだら兵士の気が逸らせるか考えて誘導して」
「俺は?」
「偉大なるリーダーは……ちょっと留守番」
「ふざけんなよ、お前」
どうやらサラマンダーだけでなく他の人も不満らしい。
いや、だって説明してる暇はないじゃん。いくら魔物のほうがはるかに足が速いとしても。
「サラマンダーは重要な役割があるんだって」
「何だ」
「まあそれはのちほど。あ、俺は城に行かないから。
シュリー、呼びかけよろしく」
「それは必要ないよ」
上から声がした。
木の上からすたっと降りてきたのは、黒髪の少女だった。
……目は、赤くなかったけど。
「誰だよ、この女。伝斗の知り合いか」
「ライヒェ。俺の……味方」
「僕が呼びかけてもうみんな城に向かってるよ。僕ってば有能だねぇ」
「そういうことだから。みんなガンバ」
巨人3人は腑に落ちない顔をしながらも、すごい速さで去っていった。
さすが、巨人。足速え。
サラマンダーにはやる事を耳打ちした。
「……それはこの前お前が思いついたことに関係があるのか」
「何だっていいだろ。絶対にへますんなよ」
「あと、あの女に聞きたいことが……」
「はいはい、用事済んでからにして」
最後にサラマンダーを見送り……あっと、もう一人いたんだっけ。
「ライヒェ、ずいぶんと久しぶりだな」
「まあね、君とかについていろいろ調べたかったし。
空、だっけ? 知り合いらしいなんて聞いたら当然調べたくなるよ」
「……空に着いてどれくらい知っているんだ」
「知りたい?」
ライヒェの瞳は緑色になっていた。
また誰か殺したんだろうか。
ま、俺には関係ないけどね。
ライヒェはとくにもったいぶることなく話し始めた。
「まず、グレンってヤツのあととって中将になったみたいだよ。
責任ある立場に鳴ったけら下手に独断で動けないよね。残念だね、君に会いにくることはもうないんじゃないの?
あと、グレンの家に住んでるみたいだよ。
グレンの娘って確かどこかの黒髪野郎と因縁のあるお嬢さんだよね」
「家の場所とか知ってたりする?」
「当然。僕は有能だからねぇ」
空は出世。
しかもラキちゃんと住んでいて、彼女はグレンの娘。
さらにサラマンダーと因縁がある相手。
俄然やる気が湧いてきた。
「サンキュー。
もともと情報収集お願いする気でいたけれど、今の報告聞いて安心した」
「じゃあ、僕のお願いも聞いてくれるわけだね?」
お願い? そういえばそんなことも言ってたっけ。
俺ができることなんて限られてくるんだけどなぁ。
どうしよう、聞くだけ聞いてみようかな。
「あははは、そんなにビビらなくていいよ。すごく簡単なことだから」
ライヒェは唇を舐めた。
青白い肌によく映える、紅色の唇。
「君の脳を頂戴?」
「……え?」
ライヒェの声はよく通る。
ただ、いくら聞き取りやすくても今のは聞きかえさらざるを得ない。
何だって?
「脳を頂戴、って言ったの。
君って変なこと考えつくし、行動は理解に苦しい。
そんな君の頭の中身に興味があるって言ってんの」
てっきり体の一部を求められると思っていた——ルックスには割りと自信あるし——だから、めちゃくちゃ驚いた。
驚いたけど……。
「わかった。全部俺の思い通りになったら、脳みそくらいあげるよ。
そのかわり、全部うまく言ったらだからな?」
「あはは、じゃあ僕頑張っちゃうー……なんて言うと思ったの?」
「じゃあ道中で気に入ったものがあったら言ってよ。
その協力も込みでって言うなら、どう?」
「……そのときによるかな。まあ納得いかなかったら君を殺せばいいんだよね」
「まあ、そういうことだな」
内心、うまくいく確率はかなり低いと思ってる。
ライヒェのお気に入りがいるかどうか、さらにちゃんと協力できるかどうか、そこまで考えていたらきりがない。
とりあえず、行動に移すのが大前提。
「いいよ、ライヒェは自由に動いてて」
「軍に所属しないって言うのも条件の一つ?」
「え? ああ、もちろん」
「そっか。じゃあ僕あんまり欲張れないね。思ったより自由に動ける条件にされちゃったし」
ライヒェは、身軽に木の上へ、そして木から木へと移っていく。
やっぱりあの白い翼は眼を引く。
でも人間たちと見分けるにはちょうどいいかもしれない。
「もしもライヒェが欲張ったらどうなる?」
「今すぐ君を殺すね」
「あー、それはアウトだ」
「でしょ?」
そのままライヒェは森の中へ姿を消した。
方角的にはもう少し行くと町のほうだ。
おそらく、城の様子とか見に行ってくれるんだろう。
「さて、俺も早く行こうかな」
しまった、ライヒェに大事なこと聞きそこねた。
まあ、いいか。
いくらうろ覚えでも、一度用事があっていったことのある場所だしね。
あの時は町の人にいろいろ尋ねながら行ったんだよな。
俺は少し足を速める。
—————
「何考えてるんでしょうね」
ケントとか言う男が呆れたように言う。
もうすぐそこまで魔物たちは来ている。
俺が合図を出したら、一斉に城に攻め込む。そういわれていた。
あの少年、伝斗に。
「そろそろですね、リーダー。準備をしてください」
ノームが小さな声で言う。
緊張してきた。唾を飲む。
こんな攻め込み方、俺にとって初めてだった。
城を見あげてみる。俺が行くべきなのは……あの場所、なんだよな。
「ノーム、俺と動いてくれ。
ケントに退散の合図は任せる」
「え? お前がリーダーだろ。俺に任せていいのかよ」
「俺とノームを見失ってから、適当な時間に引いてくれればいい。
お前は頭が切れる。だから大丈夫だと伝斗が言っていた」
以前に俺以外が指揮をとるならって話をしたとき、伝斗が真っ先に名前を挙げたヤツだ。
俺は不安だっていったんだけど、「お前のカンは外れるんだよ!」って言われた。
「行くぞ、準備しろ」
こんな合図でいいのか不安だが……俺は銃を構え真っ直ぐ宙に向ける。
伝斗、お前の言うこと全部信じてるんだからな。
本当にお前の世界はこんなふうに始まりの合図をしてたんだよな?
しかも音がすれば玉が入ってなくてもいいって……。
引き金を思い切り引いた。
軽い、弾けるような音がし、一斉に魔物たちが城へ駆け出した。